第9話「ビデオレター」

2018/05/30

 

社会人になって3年目の誕生日。
実家の両親から、小包が送られてきた。
封を開けてみると、中にはDVDが。

不思議に思いながら、プレイヤーで再生してみると、実家の庭に立つ両親の姿が映し出された。
理由があって地元を離れ都市部の女子大に進学した私は、その地で就職し地元には戻らなかった。
卒業してからは忙しさにかまけて1度も帰省していなかったので、顔を見るのは本当に久しぶりだった。

「あつ子。元気にやっているか?」
「あっちゃん。元気?」

むかし、食卓で見ていたテレビ番組で、こんなビデオレターを放送していた記憶がある。
それを真似して私の誕生日に贈ってくれたのだろう。
両親ともに高校の教員で、こんな洒落たプレゼントを思いつくような人達でなかったので、胸が熱くなった。

「お父さんとお母さんは元気にやっているぞ」父の低音の声が心地よく耳に響く。
「あっちゃんも身体に気をつけてね」母の柔らかい笑顔が懐かしかった。

だが、二人ともどこか緊張している様子で、いつもと違う気がする。慣れないことをするからだよ、と心の中で苦笑した。

「あつ子。今まで色々あったよな・・・」父が真面目な顔で言う。
「お前も悩んで苦しんだと思う。父さんもずっと心配していたんだぞ」

私は首をひねった。
父が言おうとしているのはアノ話のことか。
だが、今まで父は、私に早く忘れさせようと気をつかって、何も聞かずにいてくれていたと思っていた。
私の誕生日に今さらアノ話を蒸し返す意図がわからなかった。
「・・・父さんな、お前に言いたいことがあるんだ」
そう言うと、父は言葉を探すように唇をみしめた。涙をこらえているのかと思ったが、よく見ると、画面の父は尋常じんじょうじゃない量の汗をかいて身を震わせていた。

「・・・あつ子!逃げろ!」突然、父の叫び声が画面から響き、私は思わず身じろぎした。

画面がグルリと回転し、地面しか映らなくなった。
カメラマンがカメラを投げ出したのだ。
ゴキ!グシャ!という嫌な音と父と母の叫び声が交互に続いた。
脳裏にアノ男の顔がよぎった。忘れたくても忘れられない。
高校2年から3年にかけて、私を付け回していたアノ男。
私は、身の危険を感じて、逃げるように地元を離れたのだった。
DVDが停止した瞬間、ふいに、耳元で声がした。

「・・・ハッピーバースデー」

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