高知県香美市に見返り橋という橋がある。
山道にある赤い小さな橋なのだが、真夜中に決してこの橋の上で振り返ってはいけないと言われている。
有名な話では、振り返ると恐ろしい形相をした女性が立っていて、這いつくばって追ってくるという噂がある。
これは大学生のAさんが見返り橋で体験した怖い話だ。
ある年の夏、Aさんは、大学の友人3人と見返り橋に肝試しにいくことになった。
Aさんは決して怪談や怖い話が好きな人ではなかったが、誘われる形で同行した。
友人の一人の車で、見返り橋に到着したのは深夜1時を過ぎだった。
橋の前の路肩に車を止めた。
車から降りた瞬間、夏場だというのに刺すような冷気が一帯に漂っているのに驚いた。
山だからか、ずいぶん空気が違っていたという。
Aさんと3人は見返り橋を歩き出した。
Aさんは内心、軽い気持ちでついてきたことを後悔していた。
橋の上にいるだけで身体が押しつぶされるような圧迫感があった。首の後ろにチリチリとする違和感があった。
まるで異界のようだった。
背中を冷や汗がつたった。
「じゃあいっせいに振り返ろうぜ」
友人のBが言った。
「いっせーの」
誰も振り返らなかった。
「なんだよ、振り返れよ」
言っているBの手足は震えていた。
振り返ったらいけない、全身が拒否していた。
他の3人も同じ気持ちのようだった。
「そうだ」とCが声を上げた。
スマホで後ろを撮影すれば振り返らなくてもいいでのではないかとCは提案した。
4人にとってはこれとない名案だった。
さっそくCはスマホのカメラを動画モードにして、後ろ手に背後を撮影した。
録画を続けたまま4人は背中を向けたまま後退し始めた。
橋の上にいる間は決して後ろを振り返りたくなかった。
ようやく車まで戻ってきた。
たった数メートルが何十メートルにも感じられた。
車に乗り込みようやく気持ちが落ち着いた。
「動画見てみようか」
後部座席のCがみんなに見える位置にスマホを持ってきた、橋で撮影した動画を再生した。
暗闇にぼんやりと浮かび上がる赤い橋。
映像はゆっくりと後退していく。
最後まで観ても動画にはなにもおかしなものは映り込んでいなかった。
「やっぱり、橋の上で振り返らないと何も起きないんじゃないか」
安全だとわかった途端、助手席のBが強気になって言った。
帰りにラーメンを食べて4人は別れた。
けど、それから2日後のことだった。
動画を撮影したCさんがAさんのところにやってきて、Bさんと車を出してくれたDさんが大学を休んでいて連絡が取れないという。
AさんとCさんは心配になって2人で、Bさんのアパートをたずねた。
玄関のドアをしばらくノックしても反応はなかった。
けど、部屋の中から微かに声が聞こえた。
Aさんは玄関ドアに耳を押し当ててみた。
なにかBさんがしゃべっているのが聞こえた。
無事ではあるようだ。
耳をすませてみた。
「・・・振り返ったらダメだ。振り返ったらダメだ」
そう聞こえた気がした。
続いて学生寮に住んでいるDさんを訪れたが、顔色が悪く寝込んでいた。
Bさんと同じようにしきりに「振り返ったらいけない、振り返ったらいけない」と繰り返しつぶやいている。
見返り橋といういわくつきの場所にいったせいではないかと2人は考えたが、なぜBさんとDさんだけ症状が出たのかわからなかった。
その時、Cさんがひらめいたように言った。
「もしかしたら、BとDが車の前の座席に座っていたからじゃないか。前座席に座っていた2人は動画を見るのに身体をひねって振り返らないといけなかったろ。”振り返って”橋の動画を見てしまったから、あの橋の呪いにかかってしまったのかもしれない」
考えるとたしかにそうかもしれないとAさんも思った。
2人とAさんとCさんの違いは、振り返って動画を見たかくらいしかなかった。
その後、BさんとDさんは病院に入院したらしいが、わかっているのはそこまでだ・・・。
AさんとCさんが無事だったのかも明らかではない。
もし、ネットなどで見返り橋の動画を見つけても、決して振り返りながら動画を見ない方がいい。
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