【怪談】【怖い話】鈴鳴り

 

これは数年前まで妻と息子と住んでいた埼玉の賃貸マンションで私が体験した怖い話です。

息子が小学校2年に上がった年のことでした。
いずれは一軒家を買おうと妻と話していて、当時は、築古で安めの賃貸マンションをあえて選んでお金を貯めていました。

ある日の帰りのことです。
仕事で夜遅くなりクタクタでマンションに帰ってきて、ロビーでエレベーターを待っていました。
1分ほど待つと、エレベーターが1階に到着しました。
22時を回っていたので、私以外にひとはいませんでした。
エレベーターに乗り込み、6階のボタンを押しました。
ゆっくりエレベーターのドアが閉まりだしました。
その時です。

チリンチリン

ロビーの方から鈴の音が聞こえました。
カバンにつけたアクセサリーの鈴が鳴ったか、ペット可の物件だったので首輪の鈴かもしれません。
とにかく、誰か他にエレベーターに乗ろうとしているのかと思って「開」のボタンを押そうとしましたが、すでにドアは閉まった後でした。

鈴の音についてはたいした話でもないので妻に報告することもせず、忘れてしまいました。
ところが、それから数週間経ったある日のこと。
その日も夜遅くなって、エレベーターを待っていると、どこからともなくチリンチリンと鈴の音が聞こえたのです。
ロビーに私以外にひとけはありませんでした。
なんだか嫌だなぁと思い、家に帰ると晩酌をしながら、妻に鈴の音の話をしました。
すると、「私も聞いたことある」と妻が言いました。
買い物帰りにエレベーターに乗ったら、ドアが閉まる瞬間、チリンチリンと鈴の音がしたというのです。

妻が鈴の音の話を同じマンションに住むママ友としたところ、自分も聞いたことがあるという声がたくさんあがりました。
あるママ友によれば、昔住んでいた住人の一人は、鈴の音でノイローゼになって引っ越したそうです。
そして鈴の音を鳴らしている人の素性を知るママ友は一人もいなかったそうです。

それから一ヶ月くらいは何事もありませんでした。
ところが、妻と息子が、妻の実家に遊びに行って不在だった時にそれは起きました。
夏前で蒸し暑かったので、私は窓を開けて網戸にして晩酌をしていました。
すると、ふいに窓の外からチリンチリンと鈴の音が聞こえました。
例の鈴の音に違いない。
私は音の出所を確かめようと、網戸を開けベランダに出ました。

チリンチリン

つづけて鈴の音が聞こえました。
音は隣り合う部屋から聞こえたわけではありませんでした。
ベランダの柵の向こう、なにもない空中から鳴っていた気がしました。
夜気もあったと思いますが、ブルッと寒気がしました。
私は部屋に戻ると窓を閉めて鍵をかけました。

もう寝よう、そう思って寝室にいき布団にもぐりこみました。
まどろんでいると、チリンと音がした気がしました。
・・・部屋の中からです。
聞き間違いかと思いましたが、しばらくするとまたチリンと鈴の音が聞こえました。
間違いなく家の中から聞こえました。
気味が悪くて仕方なくて、私は布団を頭から被りました。

チリンチリン

鈴の音は寝室のドアを隔てた向こう側から鳴っていました。
鈴の音を鳴らす"何か"が私の家に侵入してしまったようでした。
怖くて仕方ありませんでした。
身体の芯が凍えるほど寒くなりました。
何か恐ろしいものが部屋に入ってこようとしている。
そんな気がしてなりませんでした。

チリンチリンチリンチリン

鈴の音は一向にやみませんでした。
私は耳を塞ぎ、「やめてくれ」と心で唱えました。
すると、ピリリリという異質な機械音がしました。
スマホに妻から着信があったのです。
私は慌てて着信を取りました。
「もしもし!」
呼びかけましたが電話が遠いのか妻の声ははっきりと聞こえませんでした。
「もしもし!」
もう一度呼びかけた時、今度は電話の向こうからはっきり聞こえました。

チリンチリン

鈴の音です。
私はスマホを放り投げました。

チリンチリンチリン

音は私の寝室の中に入ってきていました。
ついには布団の上から、チリンチリンと鈴の音が聞こえました。

チリンチリンチリンチリンチリン
チリチリチリチリチリチリ

鈴の音は一つではありませんでした。
二つ、三つ、四つと増えていき、ついには数え切れないほど無数の鈴の音が重なって布団の上で鳴りました。
「やめてくれ」私は声にならない叫びをあげ耳を塞ぎました。

・・・記憶があるのはそこまでです。
気がつくと翌朝になっていました。

それから鈴の音に襲われることはありませんでしたが、妻と相談して引っ越しを決めました。
今でも鈴の音を聞くと、あの時の恐怖を思い出し、身がすくむ思いがします。

なにもないところで、チリンと鈴の音が聞こえた時はくれぐれも注意してください。

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