私は、とある土地の管理人のようなことをしております。
その土地には、古い隧道がありまして、隧道を抜けると雑木林の中に廃墟の建物があります。
かつては病院だったそうですが、今となっては面影もありません。
その土地は、とあることで有名でした。
いわゆる心霊スポットと呼ばれる場所でした。
みるからに何か出そうな雰囲気ですので何ら不思議はありません。
夏場ともなると、連日、物好きな若者やテレビの取材、最近ですとYouTuberなどがひっきりなしに訪れます。
ただ、私有地ですので、普段は門扉で閉じられていまして、問い合わせがあれば、私が受付をして簡単な案内をするという流れになっております。
最近はSNSのせいもあって、問い合わせが殺到しておりまして、お盆前ですと一日で最大10組案内したことがあります。
対応する者は私しかいませんので、あまりにたくさん来られると、どうしてもお待ちいただくことになります。
そのため、いつしか、この土地は”行列ができる心霊スポット”などと揶揄されて呼ばれているようでした。
逆に私としてはよく飽きもせず毎年こんなに大勢の人が訪れるものだと、驚いています。
それも、この土地が持つ、人を惹きつけるパワーなのかもしれません。
かつては肝試し目的の人達が圧倒的に多かったと思いますが、最近はほとんどが動画撮影目的の人達です。
私も土地を管理する立場として、どのような形で動画が発信されているのかチェックしておこうと思いまして、いくつかネットにアップされている動画を見たことがあります。
それがなかなかよくできていて毎日管理人として通っている私ですら新鮮な気持ちで怖くなるような巧みな構成の動画が多いこと。
ところが、『幽霊が映った』と撮影者が大騒ぎしているシーンを見て、きょうがさめてしまいました。
なんのことはない、ブッキングした撮影者同士がお互いを遠くから映しあって幽霊が映り込んだなんだと騒いでいるだけでした。
人気スポットですので、同時にたくさんの人達が撮影や肝試しを行うものですから、どうしても頻繁にでくわしてしまうのです。
シーズン中の観光スポットのようなもので、あっちこっちに人がいますので、みなさん怖がってはおりますが、実際のところそんなに怖いものかなと疑問に思ったりもします。
たくさんの人達が訪れると、それだけ問題も多く発生します。
ゴミの不法投棄、落書き、ボヤ騒ぎなど、連日のように起きる大事小事の対応も私の仕事となっておりまして、ボヤきたくなるほど来訪者達のマナーは悪いものでした。
そういったマナーの悪さなどを見るにつけ、無償で土地を開放するのをやめた方がいいのではないかと、私は雇い主である土地の所有者の方に一度具申してみたことがあります。
すると、所有者の方は笑って言いました。
「たくさん来ていただいて結構じゃないですか」
「ですが…」
「なんで私があの土地をわざわざ開放してると思います?」
「さぁ。なぜですか?」
「あの土地にはね、噂に違わず、不浄なものがたくさんいるんですよ…」
「へ?そうなんですか?私は何も見たりしたことはないですが」
「私が肌身離さず持っているようにお伝えしたお守りありましたでしょ。ちゃんとお持ちですか?」
「えぇ、はい」
「何もないのは、そのお守りのおかげですよ。身を守るものを持たずにあの土地に足を踏み入れれば、どんどん悪い霊が寄ってきます。あの土地を訪れた人達は、知らず知らず引きつれて帰ってくれるんですよ、悪いものを…そうすると、どうなると思います?どんどん浄化するんです、その土地は…もう10年くらいしたら、農地や宿泊施設にできるんじゃないかな……楽しみです」
と言って怪しく笑った土地所有者の方の声が今も頭にこびりついて離れません。
そういえば、私は雇い主である土地所有者の方と一度も会っていませんでした。
やりとりは全てメールか電話。
一体、どんな人物なのか…。
そもそも、”人”なのか。
なぜか、そんなことを思ってしまいました。
本当に怖いのは、心霊スポットと噂される場所をそのままにして、大勢の人の訪問を許している土地所有者の方なのかもしれません…。
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