ホワイトハウスの怖い話

 

新潟県新潟市西蒲区の角田浜の山中にホワイトハウスと呼ばれている廃墟があり、全国的にも有名な心霊スポットとなっている。

ホワイトハウスについては色々な噂があって、
元々はある外交官の別荘だった場所で、
その一人娘が重い精神病を患い、
一向に病状が回復しないので2階に隔離されていたが、
部屋を抜け出した娘は猟銃で家族を皆殺しにした事件があったとも言われている。

私の友人でタクシー運転手をしているAさんも、
ホワイトハウスで恐ろしい体験をした一人で、
私はAさんから聞いてホワイトハウスという心霊スポットの存在を知った。

Aさんは、新潟市在住の40代男性。
勤めていた会社が倒産してタクシー運転手となった。
Aさんの周りでもホワイトハウスの存在は有名だったが、
心霊スポットとは誰も考えていなかった。
どこぞの建設会社社長の持ち物で、使われなくなって廃墟化してしまった別荘という話だった。
なので巷で出回っているような陰惨な事件もなかったし、
確かに2階の部屋の窓には鉄格子がはめられているが、
単に防犯用のものだともっぱらの噂だった。

ただ、タクシー運転手をしていると、
たまにホワイトハウスに行って欲しいという客を乗せることがあるのだという。
見るからに、肝試しや心霊スポットを見物にきたオカルト好きの若者達だというが、一度だけ、不思議な乗客がいたという。

その乗客は、会社員風のスーツを着た男性で、Aさんより少し年下に見えた。
新潟駅から乗車したスーツの男性は、ホワイトハウスがある住所を目的地として告げたそうだ。
サラリーマンが一人で何をしにホワイトハウスに行こうとしているのか、Aさんは気になったけど、声をかけづらい雰囲気を男性はまとっていた。

30分程度でホワイトハウスに続く道までたどりついた。
「ここで止めてください」
そう言われてAさんはタクシーを止めた。
「15分程度で戻ってきますので、ここで待っていただけますか」
そう言って男性はチップ代わりに1万円札をAさんに渡した。
心霊スポットの近くで待機するなど本当は嫌だったけれど、男性が何をしに行くのか好奇心に負けたAさんは了承した。

男性はタクシーを降りると、ずんずんとホワイトハウスに続く坂道を上がっていった。

週刊誌を読みながらAさんは時間をつぶした。
けど、15分経ち、30分経っても、男性は戻らなかった。
男性の身に何かあったのだろうか。
男性を置き去りにして帰りたい気持ちもしたけど、それではあまりに無責任かと思い、Aさんは男性の様子を見に行くことにした。
いつのまにか辺りは暗くなっていて、懐中電灯が必要だった。
心霊スポットに日が暮れてからいくなど正気の沙汰ではないと思いながら、気が優しく人を見捨てておけないAさんは震える足でホワイトハウスに向かった。

呼び名通り白い建物の廃墟が懐中電灯の明かりの中に浮かんだ。
周りは藪と雑木林に囲まれている。
何か潜んでいないか懐中電灯で注意深く確認した。
近くを通るシーサイドラインの車と日本海の波の音が微かに聞こえるだけだった。
建物の外には男性の姿はなかった。
Aさんが恐れていたとおり男性はホワイトハウスの中に入っているようだ。
「お客さん、大丈夫ですか〜」
Aさんは、囁くような小声で呼びかけた。
大声をどうしても出せなかった。
何度呼びかけても返事はかえってこない。

仕方なく建物の中に足を踏み入れた。
懐中電灯の範囲しか見えないので視野はとても狭かった。
自分の心臓の鼓動音が大音量で聞こえるほど緊張と恐怖が高まっていた。
暑くもないのに汗が止まらない。
「お客さん、大丈夫ですか〜」
壊れた家財の破片がいたるところに転がっていて歩くたび建物中に響くほどの足音が鳴る。
それが一層、恐怖をあおる。

一階はひととおり見終わったけど、男性の姿はなかった。
Aさんは階段の上の二階を懐中電灯で照らした。
外交官の娘が幽閉されていたという二階。
怪談話を鵜呑みにするわけではないけど、
二階に上がるのはためらわれた。
それでも勇気を振り絞って、一歩ずつ階段を上がった。
二階も荒廃していた。
「お客さん、いるなら返事してくださいよ」
これ以上進みたくない気持ちとは裏腹に足は前に進んでいく。
まるで引き寄せられているようだったと振り返ってAさんは言っていた。

ある部屋の前でAさんは足を止めた。
中に入らずとも禍々しい気配が部屋の中から漂ってきていた。
もし本当に一人娘が幽閉されていたのだとしたら、この部屋に違いない。
そうAさんは感じた。

部屋の中に懐中電灯を向けた。
思わずAさんは悲鳴を上げそうになった。
部屋の真ん中に人が立っていた。
タクシーに乗せた男性だった。
男性はこちらに背中を向けていて、
鉄格子がはまった窓の外を眺めるように立っていた。
「お客さん、大丈夫ですか」
男性の前に回り込んだAさんは、
今度こそ悲鳴をあげた。
男性は白目を剥いて立ちながら気を失っていた。
なのに、倒れていなかったのは、少女が男性の腰に手を回し抱きしめていたからだった。
少女は二ィィと口角を上げて笑うとスッと姿を消した。
支えを失った男性の身体は倒れ始め、Aさんは慌てて男性の身体を支えた。

Aさんは汗だくになりながら気を失った男性をホワイトハウスの外に引っ張り出した。
少女の霊が現れることはなかった。
けど、最後に一度だけホワイトハウスを振り返ると、二階の窓に人影が見えたという。
それも一人二人ではなく、大勢の人影だった。

男性をタクシーの後部座席に乗せて、
Aさんはアクセル全開でホワイトハウスを後にした。
車中で男性は意識を取り戻した。
Aさんが、自分が見たものを話すと、
男性は納得したように自身について話し始めた。
男性は、いわゆる霊能力者を生業としていて仕事で新潟に来たので、有名な心霊スポットのホワイトハウスに立ち寄ることにしたのだという。
「あんなに危ないところとは思わなかった」
霊能力者の男性はそう言って嘆息した。
男性の体調は問題なさそうだったので新潟駅まで送り届けた。
「私も商売がありますので、あなたが見たものについて他言しないでくださいね」
男性は最後にAさんに強く念を押して去っていった。

後日、Aさんは霊能力者の男性が運営しているブログをのぞいてみた。
そこにはホワイトハウスについての記事が載っていた。
Aさんが体験した恐怖が詳細に書かれていた。
ただ、Aさんが男性を助けた事実は書かれておらず、
男性が家族からの依頼でホワイトハウスで行方不明になったオカルト好きのタクシー運転手を助けたというストーリーに脚色されていた。
あざとさに呆れるしかなかったという。

Aさんは、それ以来、ホワイトハウスに行こうとする乗客は断るようにしているという。
話を終えたAさんは去り際、私にこう言った。
「実は、私が乗せた霊能力者の男性、お亡くなりになったみたいなんですよ。霊視とやらで荒稼ぎしたお金で山奥に建てた白い邸宅で首をつって・・・なんでも、その方の家もホワイトハウスと呼ばれているとか。本当かどうかわかりませんが、私が体験したことと関係あるのでしょうかねぇ・・・」

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