新潟県十日町市に樹齢100年ほどのブナの木が一面に生い茂る林がある。
ブナの立ち姿が美しいことから「美人林」と呼ばれていて、
写真愛好家やSNS映えするスポットとして年間10万人以上の人が訪れている。
これはそんな美人林でボクが体験した怖い話だ。
ボクは一眼レスカメラの写真撮影を趣味にしていて、
インスタやTwitterで撮影した画像をアップしている。
美人林が、SNS映えするスポットというのは聞いていて、
今年の11月初旬に念願の撮影に赴いた。
当日は生憎の雨だったけど、
紅葉したブナ林が空に向かってまっすぐ屹立した姿は雨の中でも絵画のような美しさがあった。
天候が悪かったため、数えるほどしか人がおらず撮影もしやすかった。
アングルやスポットを変えて、満足のいく撮影を済ませて、
そろそろ帰ろうかという頃のこと。
ふと1人の女性の姿が視界に入ってきた。
女性はブナ林の奥に立っていて、撮影するわけでもなく、
じっとブナ林を見上げて立っていた。
距離が離れているので表情はうかがい知れなかった。
ボクは女性から手元に視線を戻し機材の片付けを始めた。
レンズを外し、収納ケースに入れる。
ふと目線を上げて、「えっ」と思った。
さっきまでボクの位置から12時の方角に立っていた女性が、
9時の方角に移動していた。
目を離したのはほんの数秒だったはずだ。
そんなに素早い移動をしたのかと驚きだった。
しかも、女性は今は再び立ち止まってじっとブナの木を見上げている。
なんだろう・・・とても違和感を覚えたけど、
ボクはその気持ちを振り切って片付けを再開した。
けど、やはり気になってしばらくして顔を上げると女性の姿は消えていた。
ぐるりと見回してみた。
すると今度は真反対の3時の方角に立っていた。
移動するのに全く気がつかなかった。
こんなに早く移動できるものだろうか。
片付けを続けながら女性を目の端で追った。
次の瞬間、驚くべきことが起きた。
ブナの木に女性の姿が隠れた後、
数m離れた別のブナの木から女性が突如現れたのだ。
まるでブナの木からブナの木に瞬間移動しているようだった。
アノ女性は、生きている人じゃない。
ボクは反射的にスマホのカメラを向けていた。
これまでも奇妙な写真を撮影したことはあったけど、
ここまではっきり肉眼で見えたのは初めてだ。
怖さもあったけど、それ以上に、
面白い写真が撮れるのではという気持ちが勝った。
何枚か女性に向けてシャッターを切った。
ボクが写真を撮る最中も女性は何回もブナからブナへワープした。
けど、次第に胸騒ぎがしてきた。
女性がちょっとずつボクのところに近づいてきている気がしたのだ。
・・・勘違いではなかった。
今ではすっかり女性の表情まで読み取れた。
ブナの木を見上げていると思っていたけどそうではなかった。
女性の首は折れているみたいに不自然に後ろに反っていた。
そして、半笑いの目がボクの方を見つめていた。
ボクは慌てて荷物をまとめて美人林から走って抜けた。
駐車場まで戻って振り返った。
女性はもうどこにもいなかった。
ボクは震える手で撮影した写真を確認した。
写真には女性の幽霊がはっきり写り込んでいる。
興奮と恐怖がないまぜになって笑いが込み上がってきた。
その時だった。
「勝手にとらないでよ」
突然、背後から声がした。
その後、見たあまりに恐ろしい光景については詳細を書くのはやめておく。
ただ、ブナの姿が美しいから美人林と呼ばれるようになったのではなく、「美人林」には他に何か恐ろしいいわくがあるのではないかとボクは思っている・・・。
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