【怪談】あやかし一期一会

 

つい、先日のことです。

私はいつも、仕事帰りに、
公園に立ち寄り一服してから家に帰るのですが、
その日は帰りが終電近くになってしまい、
公園についたのは日付が変わる頃でした。

所定の喫煙スペースのベンチに座りタバコに火をつけました。
公園には電灯がひとつだけしかなく、
タバコのパッケージも見えないくらいの暗さです。
夜も遅かったので、周りを見渡しても園内には私しかいませんでした。

一本目を半分ほど吸い終わった頃、
人影があらわれました。
スーツを着た会社員風の男性で、
少し間隔を開けて、ベンチに座りました。
普段は人がいても邪魔くさいだけですが、
今日は心細さから、
タバコ仲間ができて、安心しました。

それから、
スマホを操作しながらタバコを吸っていたら、
にゃーと猫の鳴き声がしました。
結構、近くから聞こえたので、
周りを見渡しました。

けど、猫の姿はありませんでした。
変だな、と思いましたが、それ以上は気にしませんでした。
一本目を吸い終わり、
今日はもう一本吸っていこうと思い、
箱からもう一本取り出すと、
再び、にゃーと猫の声が聞こえました。
声の大きさからして、手が届く距離にいないとおかしいくらいでしたが、やはり猫の姿はありません。
なんだか気持ち悪くなってきました。

その時、私は目撃してしまいました。
近くに座ったスーツの男性が口を大きく開け、
その口から、にゃーーと猫の声がはっきり聞こえたのです。
声帯模写?と一瞬思いましたが、
そんなわけがありません。
わけがわからず私は思考停止に陥り、
固まってしまいました。
スーツの男性は、それからも猫の鳴き声を出しました。
私に見られていることなど微塵も気にした様子はありませんでした。

猫又・・・。
何かの本で読んだ妖怪の話を思い出しました。
100年以上生きた猫は、
人の姿をした猫又という妖怪になるのだそうです。

ゾゾと寒気が背中を走りました。
新しく火をつけた2本目のタバコを捨て、
私は急いで公園を後にしました。

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スーツの男は慌てて公園を立ち去っていく彼の背中を不思議そうに見つめていた。
まるで、彼は怯えているかのようだ。
彼ほどの大物のあやかしが、自分のような猫又ごときに怯えるわけがないのだが。
それとも、彼は長い年月を人間社会で暮らすうち、
自分が何者か忘れてしまったのだろうか。
なんと、現代はあやかしにとって生きづらい世になったものか。
猫又は、深い嘆息をもらし、公園を後にした。

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