中野ブロードウェイの怖い話

 

中野ブロードウェイは、いわずと知れたサブカルチャーのメッカだ。
ビル内には、玩具屋がところ狭しと入っていて、フィギュアや特撮玩具、懐かしい玩具がショーケースに並べられている。

これは特撮好きの友人Xが体験した怖い話。

Xは、昔から特撮玩具が好きで、月に一回は中野ブロードウェイに通っているそうだ。

ある日、ずっと探していた仮面ライダーの限定品が売られているのを発見した。
かなり高額だったけど、次にきたらもうないかもしれない。
Xは意を決して購入を決めたという。

帰ろうとした時、空いているテナントを見かけた。
毎月通っているのに、なぜだろう、もともと何のお店が入っていたのか思い出せない。

足を止めた。
以前のお店で使っていたと思われるショーケースが置きっぱなしになっていた。
ショーケースの中に、ジオラマなどで使うミニチュアの人形が何体かあった。
Xは何か引き寄せられるものがあって、顔を近づけた。
近くで見ると、ミニチュアは細部までよくできていた。
昔、ガンプラを組んだ時に、街のジオラマを作ったことがあるので懐かしさもあった。

ふと微かに誰かの声が聞こえた気がした。
ささやくような、か細い声。
気のせいだろうか、その声はショーケースの中からしているようだった。
声の出所を確かめようと、Xは耳をすませた。

「・・・げ・・・て」

「・・・に・・・げ・・・て」

逃げて。
確かにそう聞こえた。
その時、ハッとして、Xはテナントの敷地から飛び出た。
ショーケースに反射した自分の顔の後ろに、玩具用工具を持ってニヤニヤと笑った男が見えたのだ。
実際にはそんな男はいなかったのに。

後から考えてみると、あのショーケースのミニチュアは、もとは生きた人間だったのかもしれないとXは思った。
彼らは玩具用工具を持った男につかまり、ミニチュアにされてしまったのではないか。
もし、ミニチュアが「逃げて」と声をかけてくれなかったら自分もいまごろ・・・。
そう思って、Xは身震いを感じた。

「・・・でさ、次に中野ブロードウェイに行ったときには、もう新しい店が入って空きテナントはなくなっていたんだ」とXは言った。
「いや、ちょっと待てよ。そんな怖い思いしたのに、また中野に行ったのか?」
「うん。買いたい玩具があったから。怖いだろ?中野ブロードウェイ」
「・・・」
そんな恐怖体験をしてまで、玩具を買いに行けるお前の玩具愛の方が怖いよと、内心思ったけど、僕は口には出さずにおいた・・・。

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