中央線沿線には、かつて、『魔の踏切』と呼ばれた、有名な心霊スポットがあった。
ちょうど国立市と立川市の間。
自殺者の霊が数多く目撃され、電車の通過を待っていると線路の方に引っ張られることがあったそうだ。
あるテレビ番組が取材した時には、無数の手が映り込んだという噂もある。
その心霊スポットも、中央線の高架工事によって踏み切り自体がなくなり、様変わりした。
僕は国立市に住んでいる。
魔の踏切の話は噂で知っていたので、以前は避けていたけど、
中央線が高架になって踏切がなくなってからは通勤の近道なので使うようになった。
けど、僕にはある疑問があった。
確かに道路は整備されたけど、もし、本当に地縛霊が踏切にいたのだとしたら、
そんな簡単にいなくなるものなのだろうか?
踏切がなくなった今、彼らはどこへいったのだろうか。
そんなことを考えていたある日、奇妙な光景を目撃した。
夜半に仕事から帰っていた時だ。
僕の前をスーツの男性が歩いていた。
ちょうど踏切の跡地にさしかかったタイミングで車が通りかかった。
男性は車が通る前に道路を横断し高架下に入っていった。
僕は車の通過を待った。
男性から目を離したのはほんの一瞬だったと思う。
車が通りすぎ、僕も高架下にいこうとして、ギョッとした。
・・・二人に増えていたのだ。
男性の後ろを、ついさっきまでいなかった女性がピタリとついて歩いていた。
女性は首がガクガクと揺れていて変な歩き方だった。
あんな接近されて後ろを歩かれたら不快に思う距離だ。
どう考えても普通じゃない。
男性と僕の帰り道が分かれるまで、女性は男性の背後を離れることはなかった。
あのまま家までついていくのではないか。
そんな気がして寒気がした。
家に帰って、さっきの女性について、振り返って考えてみた。
そして僕なりの結論が出た。
あの女性は、もともと魔の踏切の地縛霊だったのではないだろうか。
拠り所を失った地縛霊は、その場に留まるのではなく通行人にとり憑くようになった。
そういうことなのではないかと思った。
もうあの高架下を通るのはやめよう。
そう思った。
・・・けど、どうやら手遅れだったようだ。
顔を洗い終えて鏡を見たら、僕の後ろに血だらけの男性が立っていた・・・。
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