【怖い話】4月1日 エイプリル・フールの牢獄
2018/03/27
昨年の4月1日に、Fちゃんからかかってきた電話が私は忘れられない。
Fちゃんは、小学校から一緒の親友だ。
あの日、Fちゃんが言っていたことが真実だとしたら、あまりに恐ろしいことがFちゃんの身に起きている。
2017年4月1日、私は、Fちゃんからの電話で起こされた。
朝の6時。
私は寝ぼけながらスマホをとった。
「・・・もしもし。どしたの?こんなに早く」
「E。助けて!お願い!」
目が一気に覚めた。
「何があったの!?」
「・・・電話だとうまく説明できない」
Fちゃんは、近くの公園で会って話したいと言った。
私は着替えて公園に急いだ。
Fちゃんはブランコに座っていた。
やわらかい朝日がFちゃんを照らしている。
けど、対照的にFちゃんの表情は暗かった。
私は隣のブランコに座った。
「・・・こんな話、信じてもらえないと思うけど」
Fちゃんはか細い声で話し始めた。
「今日、Eとこうやって公園で話すの、はじめてじゃないんだ。もう数えきれないくらい同じ会話を繰り返してる。何十回も何十回も」
「・・・」
「なにいってるのか意味わからないでしょ?でも、私は嘘なんてついていない。
私、2017年4月1日をずっと繰り返しているの」
どう反応していいのかわからなかった。
Fちゃんは真顔だ。
同じ日を繰り返してる?
そんなことがあるだろうか。
映画や小説じゃあるまいし。
頭がついていかない。
その時、ふいに今日が何の日か思い出した。
そういうことか・・・。
「『エイプリル・フールだから私を騙そうとしてるんでしょ』」
Fちゃんが私の頭にあった台詞を先んじて言った。
「今そう言おうとしてたでしょ?Eが次に何をしゃべるか全部わかるよ。もう何十回も同じ会話を繰り返してるんだから。でも、私は嘘なんてついていない。本当に4月1日から抜け出せないの。お願い信じて、E」
Fちゃんは真剣だった。
人を騙して喜ぶ子じゃないのは私が誰より知っていた。
「・・・とても現実だとは思えないけど、Fちゃんのことは信じるよ」
私がそう言うと、Fちゃんは小さく微笑んだ。
「あ、もしかしたら、私がそう言うのもわかってたの?」
「うん・・・もう何十回目だから」
それから、Fちゃんの身に起きていることを詳しく聞いた。
4月1日のループは唐突に始まったという。
はじめは自分の気が変になったのかとFちゃんは思った。
けど、何回もループを繰り返すうち、状況を察したという。
それからはループを抜けるため、あらゆることを試みる日々が始まった。
いつもと違う行動を取ってみたり、自分の窮状を人に訴えてみたりした。
けど、無駄だった。
夜に寝て朝起きると4月1日に戻されている。
どうせ1日の朝に戻るならと、大金を使って、行けるだけ遠くに行ってみたこともあったそうだ。
結果は同じ。やはり、目覚めると1日の朝、自分のベッドで目が覚めるという。
ずっと起き続けて2日が訪れるのを待ってみたりもした。
けど、深夜3時を過ぎると必ず抗えない睡魔に襲われた。
気がつくと1日の朝。
4月1日のループからは抜け出せない。
それでも、Fちゃんは諦めてなかった。
必ず抜け出す方法があると信じていた。
「いろんな方法を試したけど、全部ダメだった。けど、すごく単純な方法を試してないことに気がついたの」
Fちゃんの作戦はすごくシンプルだった。
一人にならないこと。
私がFちゃんを一晩中見張っていて、Fちゃんが寝たら起こす。
ただ、それだけ。
私の使命は起きていること。
そしてFちゃんを4月2日の世界に導くことだ。
Fちゃんの部屋で待機した。
眠気ざまし対策に、大量のコーヒーを摂取して、二人で色々話した。
そういえばFちゃんの家に上がるのも、Fちゃんとこんなに長く過ごすのも久しぶりだった。
夜が更けた。
こころなしかFちゃんの口数が減ってきた気がする。
それもそうだ。
失敗すれば、4月1日に逆戻り。
また私に一から説明しなければならない。
緊張しない方がおかしい。
日付が変わり午前2時を過ぎると、二人とももう話さなかった。
何かが起きるのではないか。
ぴりぴりした時間が過ぎていった。
何度も時計を見た。
午前3時を過ぎた瞬間だった。
ついさっきまで普通だっのに、Fちゃんの頭が急に支えを失ったようにカクンと下がった。
意識を失っている。
これがFちゃんがいっていた抗えない睡魔か。
「Fちゃん!Fちゃん!」
揺すっても叩いても起きない。
「お願い!Fちゃん起きて!」
このままではFちゃんが1日に戻されてしまう。
「Fちゃん!起きて!」
私は諦めず、何度も何度も呼びかけた。
どれくらいそうしていただろう。
Fちゃんの身体がピクッと反応した。
そして、Fちゃんが目を開けた。
「Fちゃん!」
「E・・・」
知らずに涙がこぼれた。
Fちゃんは、4月1日のループを抜けたのだ。
私はFちゃんをおもいきり抱きしめた。
「・・・なにやってるの、私の部屋で」
目覚めたFちゃんは自分の身に起きたことを何も覚えていなかった。
私が説明しても、1日遅れのエイプリル・フールの冗談だと思われただけだった。
とにかくFちゃんが戻ってこられてよかった。
・・・そのはずだった。
けど、この頃、私はとても不安に襲われる。
あの4月1日を境にFちゃんは変わってしまった。
説明するのは難しいけど、なにかが以前とは違う。
気づいているのは私だけ。
だから、思うのだ。
今ここにいるFちゃんは偽物で、もしかすると本当のFちゃんは4月1日のループから今も抜けられずにいるのかもしれない、と。
もし本当にそうなのだとしたら、4月2日以降のFちゃんは何者なのだろうか。
また今年もエイプリルフールがやってくる・・・。
#300