【都市伝説】バレンタインの怖い話2018 #280

 

私が暮らすS市では、
バレンタインにまつわる、
ある怖い噂が女子高校生の間で有名でした。

毎年、2/14になると現れる奇妙な男子高校生。
通称『チョコレートくん』。
市内を歩いているといきなり後ろから声をかけられるのだといいます。
「チョコレートちょうだい」
振り返ると、背が小さく、
目にかかるくらいのマッシュルームカットで、
顔にニキビがたくさんある男子高校生が立っているそうです。
「チョコレートちょうだい」
無視しても男子高校生はしつこく追ってきます。
「チョコレートちょうだい」
もし、その時、チョコレートくんに、
チョコを渡してしまうと恐ろしいことが起きるといいます。
チョコレートくんの正体は何者なのか、
市内のどの高校の生徒に聞いても、誰も知らないのです。

「・・・本当だと思う?チョコレートくんの噂」
2月14日のバレンタインデー、
私は高校のクラスメイトのBちゃんと帰りながら話していました。
「単なる噂でしょ。誰かが流行らせた馬鹿話に決まってる」
Bちゃんは、前からこの手の都市伝説や怪談話に懐疑的でした。
「でも、去年も○○高のコが見たって・・・」
「本当かどうかわからないじゃん。見たって行ってるコ、注目されたかっただけじゃない?」
「・・・そうなのかな」
私は、どちらかと言うと、こういう話を素直に怖がってしまう性格でした。

私たちは駅ビルの6Fに入っている本屋さんに立ち寄りました。
Bちゃんが新発売の雑誌を読んで帰りたいと言ったのです。
気のせいかもしれませんが、
噂のせいで女子高生の姿がいつもより少ない気がしました。

本屋さんで、それぞれ雑誌を立ち読みしていた時のことです。
私は急に背中に寒気を感じました。

「・・・チョコレートちょうだい」
男の子の声が背中から聞こえました。
振り返ってはいけない、そう思いながら、私は振り返っていました。
背中を丸めた小さな高校生・・・。
目が隠れるくらい伸びたマッシュルームカット。
ニキビ痕が残った顔。
チョコレートくん・・・。
本当にいたんだ。

私はどうしていいかわからず、固まってしまいました。
「チョコレートちょうだい」
チョコレートくんは、手の平を突き出して、チョコレートを要求しました。
そこへBちゃんがやってきました。
「なにやってんの?」
Bちゃんが、ギョッとしたように、立ち止まりました。
Bちゃんもチョコレートくんに気がついたようです。
「チョコレートちょうだい」
チョコレートくんは、Bちゃんに手を差し出して、言いました。
「なにこいつ・・・」
Bちゃんは露骨に気味悪がりました。
「チョコレートちょうだい」
チョコレートくんは、笑みを浮かべながら繰り返します。
「持ってないから!」
Bちゃんは、チョコレートくんを突き飛ばすと、
私の手を引いて本屋さんを出ました。

「・・・なんなの、あいつ」
Bちゃんの声は震えていました。
チョコレートくんが実在したなんて。
まだ信じられない思いでした。
私たちはエレベーターを待っていましたが、
こんな時に限って、なかなか来ませんでした。
その時です。
「チョコレートちょうだい」
後ろからいきなり声がしました。
チョコレートくんがついてきていました。
「・・・持ってないっていってるでしょ!」
Bちゃんは通学カバンを振り回して追い払おうとしましたが、
チョレートくんは笑っているだけでした。
「いい加減にしないと警察呼ぶよ!」
Bちゃんがスマホをかざしてそう言うと、
チョコレートくんはようやく去って行きました。
その時、ちょうどエレベーターが到着しました。

「はやく、ここから離れよ」
「うん・・・」
エレベーターの中でもまだ安心できませんでした。
1階にエレベーターが到着してドアが開きました。
「チョレートちょうだい」
私達は目を疑いました。
チョコレートくんが先回りしていたのです。
息一つ切らしていませんでした。
Bちゃんは、通学カバンの中からチョコレートの包みを取り出しました。
クラスメイトの男子にあげた残りです。
ダメ!・・・止めようとしたけど間に合いませんでした。
「これあげるからどっか行って!」
チョコレートを受け取ったチョコレートくんは、
ニタァと気持ち悪い笑みを浮かべて、どこかに去って行きました。

私もBちゃんもチョコレートくんと遭遇した話を誰にも言いませんでした。
2人とも口に出すことが、はばかれたのです。
それから特に変わったことはありませんでした。
チョコレートくんにチョコを渡すと恐ろしいことが起きる。
噂のその部分だけは、どうやら違っていたようです。

ところが、ある日の放課後、
Bちゃんの家に寄って話をしていた時です。
ふいにBちゃんがスマホを見て青白い顔をしました。
「どうしたの?」
「知らないアドレスからメールがきた・・・」
Bちゃんはスマホを私に渡しました。

『おかえしわたしにいくね』

・・・チョコレートくん。
その日はホワイトデーでした。
どうやってチョコレートくんがBちゃんのアドレスを知れたというのでしょう。
「すぐ受信拒否した方がいいよ」
「そうだね・・・」
Bちゃんは、私が見ている前で、そのアドレスを受信拒否しました。
ところが、すぐに別のアドレスから再びメールがきたのです。

『いまきみのいえのまえにいるよ』

私達は窓から表を見ましたが、誰もいませんでした。
そのアドレスもすぐに受信拒否にしました。
けど、再びBちゃんのスマホからメール受信を告げる音が鳴りました。

『いまげんかんについたよ』

何度、受信拒否してもメールはBちゃんのもとに送られてきました。

『いまかいだんをのぼってるよ』

『いまにかいについたよ』

・・・誰かの足音が廊下から聞こえてきました。
こちらに向かってきます。
私達は、金縛りにあったみたいに、その場に立ち尽くしました。
メールの着信を告げる音。

『いまきみのへやのまえにいるよ』

「Bちゃん、スマホの電源切って!」
「ダメ!さっきからやってるのに、切れないの!」

その時でした。
「・・・お返し、渡しに来たよ」
背後からチョコレートくんの声が聞こえました。

・・・それからのことは覚えていません。
気がつくと、自分の部屋のベッドでした。
3/15の朝になっていました。

・・・Bちゃんは、あの日のホワイトデーを境に、
消息がわかっていません。
チョコレートくんがBちゃんを連れ去った・・・。
私だけが知っている真実です。

今年もバレンタインデーがやってきます。
私は、家から一歩も出ないつもりでいますが、
みなさんはどうか気をつけてください。

万が一、チョコレートくんに会ってしまっても、
チョコを渡さないように・・・。

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