ある日、目を覚まして鏡を見ると、側頭部の髪の毛の中に異様に伸びた毛があるのを見つけた。
昨日の夜まではなかった気がする。
つい先日、美容室で耳が出るくらいまでの短さにしてもらったばかりなので、変だなと思った。
とりあえず家にあるハサミで、長い毛だけ切ることにした。
ところが翌日起きてみると、また長い毛が生えていた。
昨日確かに切ったはずなのに。
しかも、昨日の毛より長く、女性のセミロングくらいはあった。
量も1本や2本どころじゃなく、一房くらいある。
まるで自分のものではない髪の毛が生えてきているようだった・・・。
気味が悪くて、すぐに長い髪の毛をすべて切り落とした。
その日の夜。
寝苦しくて夜中に目が覚めた。
喉がつまって息苦しい。
慌ててスタンドライトをつけると、
信じられない光景が待っていた。
首に黒い髪の毛が蛇のように巻き付いていた。
その髪の毛は僕の側頭部から伸びていた。
ちょっとずつ首が締まっていく。
苦しくて喘いだ。
手でベッド横の引き出しを探った。
ハサミの感触があった。
首に巻きついた髪にハサミを入れていく。
まるで針金みたいな固さだった。
ハサミに目一杯の力をいれてようやく切れた。
床に落ちた髪の毛は切れてなお、しばらく生き物のようにモゾモゾと動いていた。
しばらくして、動きは止まった。
一体なんなんだ!
僕は鏡で自分の姿を見て絶句した。
明らかに自分のものでない、いくつもの髪の毛の束が、ヘビのようにうねうねと蠢いていた。
その髪の毛が一斉に僕の首をめがけて飛びかかり・・・。
・・・朝、目を覚ますと髪をとかす。
すっかり日課となった作業。
鏡に映る自分は別人のようだ。
長い髪が嬉しそうに反応している。
僕は髪に生かされている・・・。

