【怖い話】【心霊】第168話「10円玉」

2017/10/16

 

ある日、ひとり暮しのアパートに帰って、服を着替えているとズボンのポケットから10円玉が転がり出てきた。
今日、小銭をもらった覚えがなかったので、不思議だった。けど、自分のずぼらな性格はわかっているので、おそらくずっとポケットに入ったままになっていたのだろうと思った。僕はその10円玉を貯金箱にしまった。
数日後。ポケットからスマホを取り出したら、チャリーン!また10円玉が出てきた。コンビニのおつりをポケットに入れてしまったのだろうか。その時はまだ、深刻に受け止めていなかった。
けど、それから1ヶ月間に5回以上もポケットから10円玉が出てきたので、さすがにおかしいぞと僕も思い始めた。何度も奇妙な現象が続くうち、僕はあることに気がついた。どの10円も昭和47年のもので、傷の具合などが全て一致していたのだ。まったく同じ10円玉が、いつの間にか僕のズボンのポケットに紛れ込んでいたというわけだ。気味が悪いとしか言いようがない。
使ってしまおう。そう思い、僕は、飲みたくもない炭酸飲料を無理矢理、自動販売機で買った。これでもう大丈夫だろうと思った翌日の朝、布団から起き上がると、チャリーン!寝間着として着ていたジャージのポケットから10円玉が転がり出てきた。
背筋が寒くなった。まるで10円玉にとり憑かれたみたいだった。
悩んだ僕は、霊感があるという大学の知り合いの女の子に10円玉を見てもらった。
「これ、きっと、こっくりさんで使われた10円だと思う。ちゃんと帰ってもらわなかったから、まだ、呼び出した霊が残ってる」
「なんで、僕のところに戻るの?」
「たまたま、悪い10円玉を手に入れちゃったってことじゃないかな。昔、こっくりさんをやったことある?」
「ない」
「じゃあ偶然だと思うよ」
「どうすれば手離せるの?」
「ちゃんとした手順で、呼び出した霊に帰ってもらえばいいんだと思うけど」
「ちゃんとした手順てもしかして・・・」
こうして、僕はこっくりさんをすることになってしまった。
場所は講義が終わった大学の教室。
白い紙に、鳥居と「はい」「いいえ」の選択肢、50音のひらがなを書いて10円玉をセットした。僕と霊感がある女の子の二人で10円玉に指を置く。
「こっくりさんこっくりさん、どうぞおいでください。おいでになられたら『はい』へお進みください」
僕はいっさい力を入れてないのに10円玉が動き出す。
「嘘だろ。力いれてる?」
「シッ。真剣にやって」
10円玉は「はい」のところで止まった。
「こっくりさん。ありがとうございました。どうぞお帰りください」
10円玉が猛スピードで「いいえ」に向かって止まった。
「こっくりさん。ごめんなさい。もう大丈夫ですので、おかえりください」
10円玉が勢いよく何度も何度も「いいえ」のあたりをグルグルと回る。
「怒ってる」
「どうすればいいの?」
僕は半ばパニックになって聞いた。
「聞いてみるしかないよ・・・こっくりさん、どうすれば帰っていただけますか?」
10円玉が動き出す。ひらがなの「し」、続けて「ん」、その次は「で」。
『死んで』。
僕は泣きそうになった。
「なんで、僕なんだよ!僕が何をしたっていうんだ!」
僕の叫び声に応じるように10円玉が動き出す。
『よ』『ん』『だ』
「呼んだのは僕じゃない!」
『お』『ま』『え』『が』『よ』『ん』『だ』
僕が?いつ?
その瞬間、ある記憶が脳内でフラッシュバックした。去年の夏、友達と集まって友人の家で飲み会をしていた時のこと。誰かが「夏だから」とネットの怖い話を声に出して読み上げ始めた。思いのほか、肝だめしみたいで楽しくて、集まった友人達で順番に怖い話の朗読が始まった。
僕が選んだ話は、「こっくりさん」。あの時、雰囲気を出すために財布にあった10円玉を小道具にして・・・。
呼び出していたのは僕だったのか。
ハッと気がつくと、一緒にいた霊感のある女子は逃げていなくなっていた。
・・・10円玉が僕の指を乗せて紙の上をダンスするように繰り返し動いている。
『し』『ん』『で』

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