第7話「デジャブ」

2016/08/30

仕事休みの日曜日。私は、リフレッシュするため運動着に着替えてランニングをすることにした。
雑誌編集者として働き始めて7年。男社会の中でつぶされぬよう日々戦い続け、心身ともにだいぶ消耗していた。

気晴らしのため、いつもとは違うコースを走ることにした。新鮮な気持ちで初めて見る風景の中を走っていくうち余計なことは考えなくなっていった。
しばらく走ると、私は、ふと奇妙な感覚に襲われ足を止めた。目の前には、何の変哲もない児童公園が広がっている。日曜日ということもあって多くの家族が遊んでいる。
それは、昨日、夢で見た光景とまったく同じだった。場所だけなら、自分が忘れているだけで初めて訪れた場所でない可能性もあると思うが、公園で遊んでいる親子一人一人の配置、遊び方までが夢で見たままだった。

デジャブ・・・。

初めてのはずなのに既視感を抱く感覚。自分自身の身に起きたのは生まれて初めてだった。
夢の続きはこうだ。公園を通り抜けて、川沿いの遊歩道を進み、その先にあるひまわり畑にたどり着く。そこで、目が覚めた。

公園を抜けてみると、夢の映像通りに川沿いに遊歩道が伸びていた。私は興奮を抑えられなかった。遊歩道を散歩する老夫婦や犬の散歩をしている子供まで夢のとおりだ。自分には未来が見える特殊能力があるのではないか。気持ちが高ぶるのがわかった。
遊歩道を軽快な足取りで走っていく。悩みなど頭から吹き飛んでいた。この先の光景が早く見たくて仕方なかった。

遊歩道の終わりが見えた。
遊歩道を抜けると、そこにはひまわり畑が広がっていて・・・。
そう思った瞬間、急に背後から服を引っ張られ、私は尻餅をついた。
50代くらいの男性がむっつりとした顔つきで私の顔を覗き込んでいる。彼が私の服をひっぱったらしい。
「何するんですか!?」私は、せっかくの楽しみを奪われ、腹が立って仕方なかった。
男性は、困惑している様子だった。
その瞬間、目の前を乗用車が猛スピードで走り抜けていった。
遊歩道の先には、ひまわり畑などなかった。そこは、信号のない交差点だった。
男性が止めていなければ、私は間違いなく車にねられていた。

後で男性から聞いた話だが、その交差点は見通しがいいのに、なぜか交通事故死が後を絶たないのだという。
デジャブなどと浮かれていたが、私は死の夢に誘われていたようなものだった。
事故で亡くなった人たちも私と同じ夢を見ていたとしたら・・・。
何か恐ろしい力が私にあの夢を見させたような気がして、それ以来、私は夢を見るのが怖くなった。

-ショートホラー