【怖い話】ペタペタペタ

2020/09/15

これは、派遣社員のKさん(26)が体験した怖い話です。
Kさんは、短大を卒業して就職したのですが、その企業が休みもまともに取れないブラック体質だったので退職し、派遣社員として営業事務の仕事を始めました。
ワークライフバランスは実現できましたが、派遣ですとボーナスもありませんし、正社員だった頃の水準の暮らしは続けられず、安いお手頃な1Kのマンションに引っ越しをしなければなりませんでした。

新しい部屋に引っ越しをして半月ほどしたある日のことです。
Kさんは夜の11時頃、お風呂に入りました。
シャワーで髪と身体を洗い、湯船にゆっくり浸かっていると、ふと喉の渇きを覚えました。
一度、お風呂から上がって、冷蔵庫から冷えたお茶を取ってこようと思い、脱衣室兼洗面室に続くドアを開けた時です。
「え?」と目を疑いました。
クッションフロアの床の上に水で濡れた足跡があったのです。
ずっとお風呂に入っていたので、Kさんの足跡のわけはありませんでした。
背筋がゾッとしました。
足跡は洗面室から外に向かって続いていました。
Kさんは身体にタオルを巻いて、おそるおそる足跡をたどっていきました。
廊下に出た足跡はキッチンを超えて、フローリングの居室まで続いていました。
足跡は、ベッドの下で途切れていました。
まさかKさんがお風呂に入っている間に誰かが部屋に侵入してきて、ベッドの下に隠れたのでしょうか。
Kさんは身を守れるようキッチンから包丁を取ってきて、勇気を振り絞って、ベッドの下を覗きこみました。
ベッドの下には、真っ暗な空間が広がっているだけで、だれもいませんでした。
玄関の鍵を確認すると、鍵もU字ロックもしっかりかかっていて侵入された形跡はありませんでした。
ホッと一安心しましたが、奇妙な足跡の謎は解けず、気持ちの悪さは残りました。
お風呂に戻りましたが、背後の気配ばかり気になって、まったくゆっくりできずすぐに上がってしまいました。
髪を乾かしてからベッドに入りましたが、電気を消すのが怖くて、布団を被って横になりました。
それでも、うつらうつらしてきて、眠ることができました。

どれくらい眠っていたでしょうか。
Kさんはハッと目を覚ましました。
電気をつけて寝たせいか、まだ外が暗いうちに目を覚ましてしまったようでした。
その時、玄関の方から微かな音が聞こえました。
お風呂場のドアが開く音でした。
続いて、ペタ・・・ペタ・・・と足音のようなものが聞こえました。
Kさんの脳裏によぎったのは、もちろん、さきほど見た濡れた足跡でした。
お風呂場から出てきた"何か"が居室の方に向かってきているのだとわかりました。

ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・

一歩進むのに数秒、時に十数秒、間がありましたが、確実にそれはKさんの方に近づいていました。
Kさんは布団を頭から被ってお風呂場に背中を向ける形でベッドに横になっていましたが、それが近づいてきている気配を背中で感じました。
春だというのに真冬のように寒くなってきました。

ペタ・・・ペタ・・・ペタ・・・

足音はどんどん大きくなってきます。
Kさんは、怖くて目を開けられず、布団の中でガタガタ震えることしかできませんでした。
ついに、足音はベッドのすぐ近くまで来ました。
背中に"それ"がKさんを見下ろしている気配を感じました。

次の瞬間、、、

スルスルスルという音とともに背中の気配が消えました。
"それ"はベッドの下に潜り込んだのです。
部屋の中から音がなくなりました。
けれど、ベッドの下からは、確実に"それ"が息を潜めている気配がありました。
Kさんは身動きしないようジッとしていることしかできませんでした。
張り詰めた緊張の中、1分が30分にも1時間にも思えました。
どれくらいそうしていたでしょうか。
時間の感覚はとうになくなっていました。

突然、ジリリリリという音が部屋に轟きました。
目覚ましとして毎日朝600に鳴るよう設定しているスマホのアラームの音でした。
止めないとと思いKさんは慌ててスマホを探しました。
スマホは枕の横にありました。
急いでアラームを解除しました。
ベッドの下の"なにか"が音に反応した気配はありませんでした。
もういなくなったのだろうか。
Kさんは、恐る恐る、首を伸ばしてベッドの下を覗き込みました。
真っ暗な空間には、なにも潜んでいませんでした。
ただ、フローリングの床は、バケツをひっくり返したように濡れていたといいます。

その後、Kさんに何があったかはわかりません。
Kさんは、この体験を友人に語った数日後、謎の失踪をとげてしまったからです。
行方不明になったKさんの部屋は、なぜか至るところが水で濡れていたといいます。

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