【怖い話】【怪談】夜泣き

1歳になる息子の夜泣きがひどい。
それも決まって同じ時間。
深夜2:43。
はじめは偶然かと思ったけど、夜泣きが始まるのは決まって、2:43。
どうも偶然じゃない気がした。
ママ友に聞いても、時間までぴったりに夜泣きする子の話は誰も聞いたことがないという。
小児科の先生に相談しても、当たり障りない対応しかしてもらえなかった。
ただ、私にはこれが普通の夜泣きとは違う気がするという漠然とした感覚があった。
それには理由があった。
私が起きていると夜泣きは起きないのだ。
その時間に何かが息子の身に起きているのではないかと、何度か起きたまま問題の2:43を迎えたことがある。
ところが、起きていると何も起きない。
私が寝ている時に限って、眠りを妨げるのが目的かのように、夜泣きが始まる。
どうにも気持ちが悪いというか、気味が悪かった。
主人と相談してベビーモニターを買うことにした。
そして、隣のリビングから息子の様子をうかがうことにした。
深夜2時を過ぎてもモニターにおかしなものは映らない。日中の疲れから目蓋が重く、今にも寝そうになる。
なんとか眠気をこらえながら、モニターを見続ける。
夫は息子の横ですでにイビキをかいて寝ている。
「明日仕事だから」は万能の言い訳だ。
2:42を過ぎた。
緊張で身体が強張るのを感じた。
これで何も起きなければ、明日は問題の時刻に寝ておこうと考えていたその時、モニターの画面に変化ぎあった。
それはあまりに奇妙なモノだった。
天井からベビーベッドで眠る息子に向かって黒い影のようなものが伸びていく。
影はだんだんとヒトの形のようになっていった。
私は驚きと恐怖で固まってしまった。
ヒトの形をした影から手のようなものが伸びて、息子の頭を押さえつけたように見えた。
その瞬間、息子が堰を切ったように泣き始めた。
私は弾かれたように立ち上がり、息子が眠る部屋に駆けつけた。
奇妙な影への恐怖心がなかったといえば嘘になるが、それよりも息子の安否が心配だった。
ドアを開けると、見えたのは、ベッドで泣く息子だけだった。
影は消えていた。
主人は寝ぼけた顔で不思議そうにしている。
息子をあやしながら、影の正体に思いを巡らせてみたが、何も思い当たる節はない。
主人に見たモノを話してみても「つかれてるんだよ」と信じてもらえない。
呑気な主人の態度に、いい加減私も堪忍袋の緒がきれて、翌日から息子と一緒に隣の部屋で寝ることにした。
主人はシュンとしてしまったが、いいクスリだと思ってしばらく放っておくことにした。
それからというもの、嘘のように息子が夜泣きしなくなり、毎日快適に寝られるようになった。
反面、主人が寝不足を訴えるようになった。
金縛りに頻繁にあって寝苦しい夜を過ごしているという。
「つかれてるんじゃない?」
仕返しにちょっといじわるを言ってみる。
またも主人はシュンとしてしまったが、本心では心配していた。
顔色が目に見えて日毎に悪くなっていたのだ。
やはり、あの影の存在が気にかかった。
あの影が夜な夜な主人に何かをしているのではないか、そんな気がしてならない。
ベビーモニターで、寝ている主人を観察してみることにした。
夜中、寝苦しそうに何度も寝返りを打つ主人。
2:43になると息子の時と同じ影が天井から現れた。
嫌な予感は当たっていた。
影は天井からグゥーっと伸びてきてヒト型になり、主人の顔を覗き込んでいるように見えた。
主人は、うなされてとても苦しそうだ。
モニター越しにも玉のような汗が浮かんでいるのが見えた。
私は主人が眠る寝室に向かった。
ドアを開けると、ベッドで苦しそうにもがいている主人の姿があった。
影はやはり消えていた。
主人を起こして、リビングに促し、水を飲んで落ち着かせた。
怖い夢を見ていた気がするけど、何も覚えていないという。
どうも問題はやはり寝室にあるようだ。
2:43という時刻に何の意味があるのかはわからないけど、あの影が決まった時刻に現れるのは間違いなさそうだ。
私は主人を説得して引っ越しを決めた。
主人自身が奇妙な体験をしたことが背中を押した。賃貸だったのも幸いした。
引っ越しまで、寝室は使わないようにした。
すると、今度は夜中、寝室の中を誰かが歩くような音が聞こえるようになった。
あの影が獲物を探してウロウロ歩き回る姿を想像して背筋が寒くなった。
それは、引っ越し前日の夜まで続いた。
結局、原因が何だったのかは今でもわからない。
あの部屋で何か恐ろしい事件があったのかもしれない。
それはもはやどうでもいい。
今は別の問題に頭を悩ませている。
引っ越してから、息子の夜泣きが再発したのだ・・・。

♯467

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