横浜のホテルの怖い話

大学生のYさんは、横浜駅に程近い単身者用マンションで親元を離れて一人暮らしをしていた。

マンションは、両サイドがオフィスビル、路地を挟んだ向かいがホテルの側面という立地で、繁華街が近いのに夜はとても静かだった。

環境もよく便利な場所にあるので、大学の仲間達は自然とYさんの部屋に集まるようになった。

その日も、大学の同級生4人でYさんの部屋で飲み会が開かれていたのだが、日付が変わった頃、Cさんが奇妙なことを言い出した。

「なぁ、あんな部屋あったか?」

Cさんは、カーテンの向こうの窓の外を指差している。
見ると、窓の向こうに、四角く切り取られた部屋の明かりが見えた。
ちょうどYさんの部屋と同じ階層だ。
蛍光灯のシーリングライトによって白く浮かび上がった部屋の様子がまじまじと見えた。
だが、Yさんの部屋の向かいはホテルの側面の壁があるだけだ。
あんな部屋などあっただろうか。
・・・いや、あるはずがない。
真向かいにあんな部屋があればYさんが今まで気がつかなかったわけがない。
Yさんは怪訝な顔になった。
その日はずいぶん飲んでいたので、はじめは酔っぱらって見間違えたのかと思ったが、Yさんや Cさんだけでなく残りのメンバーにもはっきりとその部屋は見えていた。

あるはずのない部屋が突然現れた、、、
そんなことがあるのだろうか。

「見に行ってみよう」

そう言い出したのはTさんだった。
Yさんは反対した。
気味が悪くて仕方なかった。すっかり酔いはさめていた。
だが逆にTさんは酔いが回った高揚感で恐怖をあまり感じていないらしい。
結局、奇妙な部屋をはじめに見つけたCさんとTさんの2人で謎の部屋があらわれたホテルに確認しに行くことになり、Yさんともう1人のメンバーDさんは、Yさんの部屋で留守番することになった。

CさんとTさんは部屋を出ていき、しばらくして表の路地にあらわれた。
上階の2人に手を振り、CさんとTさんは路地を回り込んでホテルのエントランスに向かった。

10分ほどすると、Yさんの携帯にCさんから電話がかかってきた。

2人は、向かいのホテルのフロントを問題なく通過して、Yさんの部屋と同じ階のフロアに到着したという。

『部屋あるぞ』

廊下の突き当たりに、Yさん達が見かけた奇妙な部屋に続くと思われるドアを発見したという。
だが、フロアマップによれば突き当たりに部屋はない構造のはずだった。
4人ともますますおかしいと思った。

「部屋があるのはわかったし、もう帰ってこいよ」

Yさんは心配になってきて2人にいった。
だが、TさんとCさんは、せっかくここまできたのにこのまま引き返すのはもったいないと思っているようだ。

『誰か人がいるかノックしてみるか』
Tさんがいって、2人の足音が廊下を進む音が電話越しに聞こえた。

「やめた方がいいんじゃないか」
Yさんはそう言ったが、2人は聞いていない。

ドアをノックする音が電話から聞こえた。
しばらくの沈黙。
『誰もいないのかな』とCさんの声がした。

ガチャ、、、キィィ、、、

ドアを開ける軋んだ音がした。

『ドア、、、開いてる』
Tさんの声は緊張していた。
2人は部屋の中に入るつもりらしい。

「いや、ヤバいだろ、もう帰ってこいって!」

冷静に考えて、2人がやっていることは不法侵入だ。見つかれば警察に連れて行かれるのは間違いない。
だが、YさんとDさんが止めてもCさんとTさんはまるで聞く耳を持たない。
まるで憑かれたように部屋に入っていった。

『普通の部屋だぞ』
『誰かが暮らしてるみたいな』
『モノがあんまないな』
『女の人の部屋かな』

YさんとDさんは慌ててカーテンを開けて向かいのホテルを仰ぎ見た。
部屋を物色するCさんとTさんの姿が見えるかと思ったのだ。

だが、Yさんは言葉を失った。
見えたのはホテルの側面の壁だけ。
ついさっきまであった白い明かりの部屋は忽然と消えていた・・・。
スピーカーにしていたスマホからはツーツーという通話が切れた機械音だけが聞こえた。
その後、いくらかけ直してもTさんとCさんに繋がることはなかった。

ホテルは該当の部屋の存在を認めることはなかった。
警察から事情を聞かれ、心底、困惑しているようだった。
YさんとDさんにしても状況は同じだ。
CさんとTさんの2人が行方をくらませたことに関してまともな説明などできはしなかった。

2人が発見されたのは3日後のことだ。
なぜか2人とも横浜から遠く離れた仙台で見つかった。
呆然と通りを徘徊しているところをパトロール中の警察官が発見したという。
2人は横浜のホテルの部屋で起きたことを全く覚えていなかった。
気がついたら仙台にいたというのだ。

たが、Yさんは、CさんとTさんの様子から、行方不明だった3日間に起きたことについて、2人は覚えていないのではなく、話したくないのではないかという気がした。
そう思ってしまうくらい、帰ってきた2人は人が変わったように怯えた様子だったからだ。

あの日、あるはずのない部屋で何が起きたのか、真相はいまもってわかっていない、、、

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