自動販売機の怖い話

 

オレは昔、自動販売機の補充の仕事をしていたのだけど、
オレが担当する地区の中に、一つだけ、山奥の人里離れた通りに設置された自動販売機があった。
周りに民家もなく、車通りの少ない峠道。
なんでこんな場所に自動販売機を設置したのかよくわからなかった。
なぜ撤去されずに残っているのかも。

その自動販売機は、売り上げが他の販売機に比べて極端に少ないのだけど、
不思議なことに、
ある炭酸飲料だけが異常に売れた。
売れ筋ではない商品だった。
よほど好きな人がいるらしい。
いったい誰がこんな山奥で、
人気がない炭酸飲料を大量に購入しているのだろう。
・・・ずっと不思議だった。

そして、ある日、
オレはついにその自販機の客と遭遇することになった・・・。

空は茜色に染まり、車の窓を開けるとヒグラシの合唱が聞こえた。
前方に自販機が見えてきて、オレはギョッとした。
販売機の前に行列ができていた。
いつもより少し離れた場所に車を停めて、降りた。

行列は、老若男女混ざっていた。
みんな一様に、同じ炭酸飲料を買っていく。
行列に並んだ人達は黙々と炭酸飲料を買っては山の中に消えていく。
見ていると胸がざわついた。
説明はできないけど、なにかがおかしい・・・。そんな感覚。
行列に並んでいる人達の周りだけ、陰鬱で重たい空気が流れているような気がした。
オレは、怖くなって、自販機の補充をせずに車に戻った。

いつの間にか、空は夕暮れから藍色に変わろうとしていた。
車を走らせて峠道を下っていくと、すぐカーブがあった。
カーブを曲がり終えかけた時、オレはハッとしてハンドルを切った。
目の前に、ガードレールが現れた。
エアバッグの衝撃が全身に走った。
まるで巨大なトンカチで叩かれたみたいだった。
事故に遭う前、車の前にたくさんの人影が見えた気がした・・・。
そして、意識を失う前、オレは見た。
大破した車の周りに大勢の人が立っていて、車の中のオレを見ていた。
どの目も怪しく赤色に光っていた・・・。

意識を取り戻したのは病室のベッドだった。
上司が見舞いにきていた。
事故によって、脳震盪を起こし、
肋骨や足の骨が折れていたけど幸い命に別状はなかった。
「お前、自販機に補充しなかっただろ?」
山奥の自販機に補充していないことが、なぜか上司にバレていた。
不思議そうにしているオレに上司は言った。
「あの自販機がなんで撤去されないかわかるか?」
首を振ると上司は続けた。
「昔、何度か会社が撤去しようとしたことがあった。
その度、峠道で大きな事故が起きた。
・・・あの自販機はお地蔵さんと同じようなものらしい。
悪いモノを鎮めている。
理解できないだろうけど、そういうことなんだ。
死にたくなければ、補充は欠かさずにやった方がいい」

それから、オレは会社を辞めるまで、
山奥の自販機の補充を欠かすことはなかった。

もし、不自然に売り切れになっている自動販売機や、
なぜか撤去されずに残っている自動販売機を見かけたら、
何か理由があるはずだから、あまり近寄らない方が賢明かもしれない・・・。

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