第115話「家鳴り」

2017/09/11

ミシミシッ

きしむような音。
家の柱に不自然な力を加えたような音。
念願の一軒家を中古で購入。
引っ越して以来、この音に悩まされている。
初めは気にかけていなかった。
引っ越す前は幹線道路の目の前だったし、騒音には慣れているつもりだったのだ。
ところが、ある時から、妙に気になるようになってしまった。
というのも、妙な音がするのは決まって深夜2時なのだ・・・。

家鳴り。
そういう現象があることを知った。
昔から怪異として、妖怪や悪霊が起こすと考えられていたらしい。ポルターガイストの一種だという。
我が家で起きているこれも怪奇現象なのだろうか。
家が決まった時刻に軋んだ音を出すだけでないかとは思う。原因はわからないが、温度や構造材の歪みなどで、同じ時刻に軋んだ音を出す理由は科学的に説明がつくのだと思う。
しかし、拭いきれない気味の悪さがあった。

家鳴りをあまりに意識しすぎるせいか、どんなに早く眠っても1:59に目が覚めるようになってしまった。

ミシミシミシッ

1秒のずれもない。2時きっかりに音は鳴る。いっそ幽霊が目の前に現れておどかしてくれないか、そんな気持ちになってくる。音だけというのが余計に神経を逆撫でる。どんなにマクラで耳を塞いでも、三半規管を直に刺激されたみたいに音は聞こえてくる。
妻と娘は、「不気味ね」という割りにはあまり気にしてなさそうだった。二人とも夜はぐっすり眠っている。

ついには、体調を壊し、心療内科に通うことになった。仕事にも影響が出始め、色々な人から引っ越しをすすめられた。それでも、長年の一軒家を手放す勇気はなかなか持てなかった。
最後は、妻と娘に泣いてこわれて決断を下した。引っ越し前の最後の夜、私は念じた。
・・・家鳴りよ、お前の正体は何なんだ。
だけど、 家は何も答えてくれなかった・・・。

近くのマンションに移った夜。
これでようやく安心して眠れると安らかな気持ちで布団に入った。
どれくらい眠っただろうか。
時計を確認すると、1:59。
秒針が12と重なったのが見えた。

ミシミシミシッ

家鳴りはついてきた・・・。

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