第54話「金縛り」

最近、よく金縛りにあう。
まどろんでいると急に身体が重たくなり、あっという間に手足の感覚がなくなる。
石になったかのように身体のどこも動かせない。
真っ暗な天井をじっと見つめることしかできない。
しばらく、何かが起きるのではないかという恐怖心と闘っているうちに意識を失う。
気がつくと朝。そんな夜が続いていた。
おそらく仕事の疲れだろうと納得していた。

ある夜。その日も金縛りにあった。だが、今回は少しだけ違った。
目の前に髪の長い女の生首が浮かんでいた。
女は血走った目を見開いて私をじっと見下ろしていた。
目と目が合う。生首女はまばたき一つしない。
フワフワと浮いているだけで、なにをしてくるわけでもないが、たまらなく怖い。
早く意識を失ってくれと願う。
だが、その日に限ってなかなか眠りに落ちない。
金縛りが解けるわけでもない。
と、生首の口元が動いているのに気がついた。
声は聞こえないが何かをしゃべっているようだ。私は唇を読もうとした。
「・・・ち・・・・・・い」
「・・・ち・・・う・・・い」
「・・・ちょうだい」
ちょうだい、生首はたしかに繰り返し繰り返しそう言っていた。
私は、早くこの状態から逃れたくて「わかった。わかった」と心の中で念じた。
すると、生首はスーッと消え、私は眠りに落ちた。

それ以来、金縛りにあうことはなくなった。
だが、生首が言っていた言葉が心に引っかかっていた。
・・・ちょうだい。一体、なにをちょうだいと言っていたのか。
最近、身体がいうことをきかなくなった気がする。
どうか歳のせいであってもらいたい・・・。

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