【怖い話】よく会う人

怖い話

私には、よく会う人がいる。

眼鏡をかけていて、髪が薄く、いかにも定年退職したサラリーマンという見た目の初老の男性で、ランニング帰りなのか必ずスパッツにランニングシャツを着ている。

なぜ気になったかというと、その男性は数歩歩くたび足を止めるのだ。
たっぷり30秒ほど無表情のまま足を止めていたかと思うと、また数歩歩く。
体調的な問題があってなのかもしれないが、そんな奇妙な歩き方をしている人が周りにいないので自然と記憶に残った。

私はその男性と3日に一度ほど、多い時は毎日会った。
場所は自宅マンションと最寄駅の間で、時間は仕事を終えて自宅へ帰る20時~22時の間くらい。
おそらく私が認識しているだけで向こうは私を認識はしていない。
同じ時間帯に行動しているということなのだろうとは思ったが、偶然にしてはあまりにも頻繁に会うので、一体なんなんだろうと長らく私は思っていた。

……そんなある日、ある奇妙な法則に私は気がついた。

男性と会う場所が徐々に駅側から自宅マンションの方に近づいてきているのだ。
一度気になりだすと、その違和感が気になってしょうがなくなった。
駅側に遠ざかることは一度もない。
会う場所は確実にマンションの方に近づいてきている。
まるで、だんだん男性が私の自宅に近づいてきているように……。

ためしに仕事を終える時間を前倒ししてみても変わらなかった。
男性と会う場所はさらにマンション側に近くなっていた。
……何かおかしい。
私は次第に恐怖が湧いてきた。
だが、この現象は説明が難しく、他の人に相談してみても私の気にしすぎだと笑われるのがせきのやまだった。
この現象の異常さは実際に体験した当事者にしかわからない。

私には、どんどん男性が私の自宅に近づいてきているようにしか思えなかった。
その感覚は日毎に確かなものになっていった。
何度試しに男性に話しかけてみようかと思ったかしれない。
だが、話しかけてみることで決定的に事態が悪い方向に向かうのでは、
そんな気がしてしまって話しかける勇気がでなかった。

ついに、ある日、私は男性と自宅マンション前で顔を合わせた。
男性はマンション前にじっと立ってエントランスを見つめている。
無表情で、何を考えているのかはうかがい知れない。
私は逃げるようにその場を後にした。
数十メートル先から振り返ると、男性はまだ同じ場所に立ってエントランスを見ていた。

案の定、数日後には男性はマンションの中に入っていた。
このままでは、いずれエレベーターで乗り合わせ、私が住む階で顔を合わせ、
そして……。
最後にどんな結末が待ち受けているのかわからなったが私は先手を打つことにした。
引っ越しをすることにしたのだ。
何も男性の存在が理由なのではない。
もともと引っ越しを検討していたのでタイミングを早めただけのことだった。

引っ越し当日。
表でトラックに荷物が積まれていくのを見学していると、最後の荷物を運びおえた業者さんが私に言ってきた。
「ご家族の方が部屋の前でお待ちでしたよ」
「は?」
聞くと、初老の男性がじっと私の部屋の前に立っているという。
やはり出た。
本当は最後に退去の立ち会いをしないといけないのだが、不動産管理業者の人に鍵を渡して確認にいってもらった。
後で聞くと、部屋の前に初老の男性がずっと立って確認作業を見つめていたという。
「ご家族ですか?」
と聞かれたので、「違います」と私はきっぱり答えておいた。

あの男性が何者だったのかはいまもって謎のままだ……。

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