【怖い話】携帯女

怖い話

こんな体験をした覚えはないだろうか。

夜道を歩いていたら弾んだ声が聞こえてくる。
見ると、携帯電話を耳に当てて話している若い女性の姿がある。
彼氏や友人と電話しているのだろうか、何を話しているのか内容はわからないが、暗くても、女性が楽しそうに笑っているのがわかる。
だけど、ふいに奇妙な考えが頭をよぎる。
・・・あの女性は本当に誰かと電話をしているのだろうか。
明らかに電話をしているのに、なぜそう思うのかはわからない。
なんだか怖いというか、不安な気持ちを覚え、女性の横を通り過ぎる。

もし、似たような体験をした覚えがある人がいたら、あなたのその直感は正しいかもしれない。

その女性の正体は、【携帯女】という怪異である可能性があるのだ。
その名前の通り、携帯女は携帯電話をかけている女性の姿をしており、ネットでその遭遇体験がいくつも語られている。

Wさんも携帯女に遭遇したことがある1人だ。

ある日、Wさんは仕事帰りで夜の住宅街を歩いていた。
通い慣れたいつもの道。
家まで数百メートルくらいのところで、ふいに女性の笑い声が聞こえた。
道の端、一軒家の塀の前で、女性が携帯電話で誰かと話していた。
年齢は20代後半くらい。スーツを着ていたので勤め人なのだろうと思った。
暗がりにも、女性が相手と楽しそうに話している様子がわかった。
しかし、ふいにWさんは説明のつかない不安に襲われた。
あの女性は本当に電話をかけているのだろうか。
かけているフリをしているだけなのではないだろうか。
なぜかそんな考えが頭に浮かんだ。
一度浮かんだその考えは頭にこびりついて離れてくれなかった。
そうこうしているうちに女性の横までやってきた。
通り過ぎ様、失礼とは思いながら気になってチラリと視線を向けると、電話をかけていた女性の目玉がギョロリと動いてWさんを捉えた。
Wさんはギョッとして身がすくんだ。
口は笑っているのに、女性の目はWさんを睨みつけているように見えたのだ。
不用意に視線を向け怒らせてしまったか。
Wさんは逃げるようにその場を後にした。
それから10分ほど止まらず歩くと、カツカツカツカツと後ろからヒールを履いた足音が聞こえてきた。
振り返ると、さきほどの電話をしていた女性が、電話をかけたまま、Wさんの後方30mくらいのところを歩いていた。
Wさんは向き直ると再び歩き始めた。
カツカツカツとヒールの音が後ろをついてくる。
それから何度か角を曲がって振り返ると、まだ女性は電話をしながらWさんの後方を歩いていた。
Wさんが止まると女性も足を止める、Wさんが動き出すと女性も歩き始める。
間違いなく、ついてこられていた。
しかも、相変わらず口元は笑っているのに、目はかけらも笑っておらずじっとWさんの方を睨み据えていた。
なんなんだ、あの人、、、。
Wさんは気味が悪くなって、全速力で走って逃げた。
ヒールの音と女性の笑い声が追ってきているのを背中で感じながら、後ろを振り返らず一目散に走った。
やがて、息が苦しくなり、もう走れなくなって足が止まった。
肩で大きく息をして呼吸を整えながら振り返ると女性の姿はなかった。
よかった、、、。
ホッとしてその場に座り込みそうになった。
喉がカラカラだ。
近くに自動販売機が見えた。
飲み物を買いに向かうと、「ウフフ、でね、でね、、、」と女性の嬌声が聞こえてきた。
まさか、そんな、、、。
携帯電話を耳に当てた女性が前から歩いてきていた。
しかも息は全くあがっていない。
そんなことありえない。
アレは、、、アレは、、、人間なのか?
Wさんは、自販機に小銭を残して、走って逃げた。
逃げながら、慌ててスマホを取り出して震える指で110番をした。
ガチャリとすぐに電話がつながった。
「助けてください!変な女の人に追われてて!」
Wさんは一気にまくしたてたが電話の相手は無言だった。
「もしもし!もしもし?!」
すると、ようやく電話の向こうから声が聞こえた。
「・・・ねぇ、なんで逃げるの?」
Wさんは恐る恐る女性の方を振り返った。
携帯電話を耳に当て女性はうっすら微笑んでWさんをまっすぐ見据えていた。
「ねぇ、なんで逃げるの?」
電話の向こうからの声と、後方に立つ女性の口からの声が重なって聞こえた。
110番したのにどうして、、、。
「ねぇ、なんで逃げるの?」
Wさんは叫び声を上げて家まで一切振り返らず逃げた。
これがWさんの遭遇体験だ。

あなたも、夜道で携帯電話をかけている女性を見かけても、不用意に見つめたりしないよう気をつけた方がいい。

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