【怖い話】変な先生

みなさんには、記憶に残っている学校の先生はいますか?

Hさんにとっては、小学校の時のO崎先生がそうでした。

O崎先生は文字通り”変な先生”でした。

いつもニコニコ笑っていて、笑顔が顔に張りついているような人だったのですが、言動全てが普通と違っている感じでした。

なぜか、おもちゃをたくさん持っていて、Hさんが廊下を歩いていると、突然、ピコピコハンマーで頭を叩かれたり、お昼休みに屋上で一人でシャボン玉を飛ばしていたり、ある時などHさんがトイレの個室に入っていると上からヒョイと覗いて「バァ」とおどかしてきたりしました。

Hさんが小学生だった二十数年前なら許されたかもしれないですが、令和の時代であれば問題になっているような言動ばかりでした。
でも、それがイヤだったかといえば、そうでもなくて、不思議な温もりのある先生だったとHさんは記憶しています。

Hさんは、小学生の時、あまり優秀な生徒ではなく、よく宿題を忘れたり、テストの点数が悪かったりしたので、放課後にO崎先生の個別の補習を受けることがありました。

ところが、O崎先生は、ほとんど勉強なんて教えてくれず、「人は死ぬとどうなる」だとか「天国と地獄はあるか」とかオカルトめいた話をHさんにするだけでした。
そんな教師らしくないO崎先生がHさんは好きでした。

ある日、Hさんが補習で計算問題を一人解いていると、O崎先生が熱心にメモを取っていました。
不思議に思って、「なにしてるんですか?」とHさんが尋ねると、O崎先生は、みんなには秘密だぞと言って、そのメモ用紙を見せてくれました。
O崎先生がメモを書いていたのはクラスの緊急連絡網の紙でした。
O崎先生は、クラスメイト達の氏名の横に、漢字一文字でメモを書いていました。
当時のHさんにも、それが漢字だということはわかったのですが、何という意味の漢字なのかまでは理解できませんでした。
なぜ、こんなメモが秘密なのか不思議に思っていると、O崎先生は「十数年後にわかるよ」と含みがある奇妙なことを言いました。

・・・その漢字のメモの意味がわかったのはHさんが25歳の時でした。

当時のクラスメイトのCくんが交通事故で亡くなったのです。
Cくんのお葬式で、Hさんは久しぶりにかつてのクラスメイト達と再会しました。
突然の悲劇にみなが意気消沈している中、昔話をするうち、Hさんは雷に打たれたようにO崎先生のメモを思い出しました。
漢字を学んだ今振り返ってみると、当時は理解できなかったメモの意味がわかった気がしたのです。
O崎先生は、Cくんの名前の横に『事』と書き込んでいました。
『事』とは交通事故の『事』ではないか。
O崎先生はCくんが事故で亡くなることを予知していたのではないか。
Hさんは、長年モヤモヤしていたクイズの答えがわかったような、全てつながったような感覚がしたのです。
CくんのことだけでHさんは飛躍した思考をしたわけではありません。
O崎先生は、他の生徒の名前の横にも、『病』『老』『事』などの漢字をメモしていたのです。
圧倒的に数が多かったのは『病』という漢字でした。
・・・漢字はその人の死因を指していたのではないか。
Hさんは、そう考えました。

「なぁ、O崎先生ってきてないの?」

かつてのクラスメイト達にHさんは尋ねました。
すると、全員が怪訝そうな顔でHさんを見てきました。

「O崎って誰?」
「そんな先生いなかっただろ」

Hさんは狐につままれたような心地がしました。
クラスメイトがHさんに嘘をついているとは思えませんでした。
みんながみんな、本当にO崎先生を知らないという反応でした。

O崎先生が小学校に存在していなかった?
だとしたら、どうして自分にだけ、O崎先生の記憶があるのだろうか。
Hさんは混乱しました。

Hさんは、家に帰ると、すぐに小学校の卒業文集を取り出して確認しましたが、どこを見ても、O崎という名前の先生は確認できませんでした。

本当にO崎先生なんていなかったのだろうか。
だとしたら、自分は誰に補習を受けたりしていたのだろうか。
その時、Hさんは、ハッとして卒業文集が入っていたダンボールの奥を探りました。
あの時の、緊急連絡網のメモをもらって取っておいた気がしたのです。
すると、ダンボールの奥に、緊急連絡網のメモは存在しました。
緊急連絡網を見てみると、クラスメイトの名前の横に、漢字一文字で『病』『老』『飛』などのメモがはっきり残されています。

やはりO崎先生は存在したんだ。

Hさんは自分の記憶違いではないことがわかりにわかに興奮しました。
ところが、Hさんは、あることに気づき固まりました。
当時は気にしていませんでしたが、Hさんの名前の横にもO崎先生はメモを残していたのです。

『殺』

残された、その漢字一文字が意味するものは明白です。
Hさんは、それから、毎日おびえて暮らしています。

(十数年後にわかるよ)

Hさんの頭の中では、O崎先生の言葉が何度も何度も繰り返し流れるそうです。


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