【怖い話】気になる怪談

夏といえば怪談だ。

Bさんは、ある日のこと、大学の同級生達4人と深夜まで怪談話に興じていた。

その中の一つの怪談が、この頃、Bさんの心をなぜかざわつかせていた。

とりとめのない、よくある怪談話だ。
某県のダムにかかる吊り橋に肝試しにいったら、白いワンピースの女が立っていた。女は自殺した人の霊で、スッと消えてしまった。
たったそれだけ。
聞いている時は、似たような話を何度聞いたことだろうと思ったし、内心、なんで幽霊がしょっちゅう白いワンピースを着て出てくるのかとツッコミを入れれていた。

ところが、会がお開きになって、自宅アパートに戻る途中、なぜかその怪談のことが頭に浮かんだ。
他にも怖い話をたくさん聞いたのに、なぜか吊り橋の怪談が妙に気になった。
布団に入って寝ようとしても、吊り橋の情景が目に浮かぶ。
夢の中でも、ダムの吊り橋に立つ白いワンピースの女が出てきた。

その日から、頭の中は吊り橋の怪談のことでいっぱいになった。
ご飯を食べていても、授業を受けていても、考えてしまう。
努力して別のことを考えようとしても、いつの間にか思考は吊り橋の怪談に戻ってくる。
理由はさっぱりわからない。
怪談の中に何か気になる謎があるわけでもない。
なのに、まるで誰かに恋をしている時のように、頭の中は吊り橋に立つ白いワンピースの女のことでいっぱいだった。

わけがわからな過ぎてBさんはイライラした。
試験も迫る中、これではいかんと思い、レンタカーを借りて、その吊り橋にいってみることにした。
今思えば、なんの理屈もないおかしな行動だけれど、その時は、実際に吊り橋にいってみることで、この現象が改善すると思い込んでいた。

高速を降りて1時間ほど山間部の道を走ると、ダムが見えてきた。
天気は晴れているのにダムから感じるのは鬱々とした暗い印象だった。
ダム周囲の道路をしばらく走ると、問題の吊り橋が見えてきた。
流石に夜中に来なかったのは英断だった。
明るい昼間に見ても、吊り橋は薄気味悪い感じがした。
車を路肩に停めて、吊り橋に向かって歩いていく。
吊り橋といっても、頑丈な作りで下はアスファルトの道路だ。
入口に立ってみたが、目的があって来たわけでもないので、何もすることがない。
これからどうしようと思っていたら、「あれ?Bじゃん」と声をかけられた。
振り返ると、先日遊んだ同級生の一人が立っていた。
車で3時間もかかる場所で会う。こんな偶然があるだろうか。
話を聞いてみると、その同級生もBさんと同じく、吊り橋の怪談がとり憑かれたように気になってしまい、ついにこの場所を訪れてみたのだという。
本当に偶然なのだろうか・・・。
2人で驚いていると、車が走ってきた。
車から降りてきたのは先日遊んだ同級生2人。
吊り橋の怪談を聞いた人間が、偶然同じ日の同じ時間に集まった。
お互いに驚き、困惑するしかなかった。
怪談に引かれてやってきてしまった。
4人の見解は一致した。
なんの変哲もない怪談話かもしれないが、何か現実離れした力を秘めていたのかもしれない。
4人は怖々と吊り橋を後にした。
先日のメンバーでただ一人だけ、吊り橋に集まらなかった人間がいた。
それは、この怪談話を披露したCという同級生だった。
Cは、Bさん達が吊り橋に行っていた同じ時刻、熱中症で倒れて、帰らぬ人となっていた。
怪談話との因果関係は不明だが、Bさん達はいまも答えのないモヤモヤとした恐怖を抱え続けているという。
それもまた怪談が持つ力なのかもしれない。

よくある怖い話にこそ、注意が必要なのかもしれない。

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