在宅勤務の怖い話

新型コロナウイルスの影響で、ZOOMやハングアウトなどのオンライン会議システムを使った在宅勤務が増えてきている。

これは、ITベンチャーに勤めるEさんが在宅勤務で体験した怖い話。

Eさんの会社は、ITベンチャーともあって世間の動きより先立って在宅勤務が推奨された。
オフィスへの出社は制限され、会議は自宅からハングアウトを利用して行われることになった。

はじめのうちは、出勤時間がなくなる分、時間を有効に活用できるので、Eさんは在宅勤務を喜んだ。
心配していたハングアウトでの会議も、カメラ機能があるので対面での会議と大きな差はなく問題ない気がした。

ところが、在宅勤務となって1週間ほど経った時のことだ。
その日は13時から部署内の定例会議があった。
ハングアウト会議に入ると、同僚達の顔が画面に並ぶ。
Eさんは、ふと違和感を覚えた。
1人、モニターのカメラをオンにしていないメンバーがいた。
一応、会議の最中はカメラをオンにする取り決めになっていた。
自宅を映したくなかったが、決まったことなので仕方なく我慢していた。
我慢しているからこそ、オンにしていないメンバーが気になったのかもしれない。
誰だろうと、名前の表示を見るが、奇妙なことに名前が表示されていない。
丸く縁取られたアイコンの部分に人型のマークが表示されているだけだ。
「カメラオンにしてないの誰ですかね?」
Eさんがつぶやくと、6人の部署メンバーが画面越しにキョトンとしているのがわかった。
課長がいう。
「全員見えてるぞ?」
「え?」
Eさんにだけ顔が見えてないのだろうか。
と、Eさんは気がついた。
部署のメンバーはEさんを入れて7人。
カメラがオンになっていないメンバーを含めると、8人となる。
1人多い・・・。
「え、1人多くないですか?」
Eさんが言うと、同僚達は怪訝そうにした。
「7人だよ。なにいってるんだお前」
課長が少しイライラと答えた。
「不具合かなんかだろう。PC再起動したのか」
怒られてEさんはシュンとした。
「すいません、やってみます」
Eさんが、ハングアウトを切ろうとすると、顔が見えない1人はいなくなっていた。
やはりPCの不具合だったのか。
「すいません、直りました」
課長がチッとあからさまに舌打ちするのが画面越しに見えた。

その後、会議は滞りなく終わり、雑談が始まった。
みんな在宅勤務が続いていて会話に飢えているようだった。
Eさんは、なんとなくモヤモヤする気持ちが続いていて、会話にはあまり参加しなかった。
「あれ?Eさん、彼女いたんですね」
いきなり会話に自分の名前が出てきて、Eさんはハッと我に返った。
「いないけど?」
「またまた。今後ろに彼女さん通りましたよ」
「は?」
Eさんは後ろを振り返る。
当たり前だが、誰もいない。
1DKの部屋にEさんは一人暮らしで彼女もいない。
誰かが後ろを通るなどありえない話だ。
「見間違えでしょう?オレ1人暮らしですよ?」
怯えてEさんが画面に言うと、「俺も見た」「私も」と口々に声があがる。
Eさんは部屋を注意深く見回す。
わけがわからなかった。
背中を冷や汗が流れる。
やはり何度見ても誰もいない。
画面に向き直る。
「ちょっと、体調悪くて先に失礼してもいいですか?」
Eさんがそう言うと、「あ、やっぱり彼女いるじゃん」と画面の中の同僚の1人が言った。
Eさんは、横目で後方を見た。
その視界の隅に、黒髪で顔が隠れた女性の姿が見えて、、、、

突然、Eさんのハングアウト画面が乱れて切れた。Eさんの接続が切れる間際、同僚達が聞いたのはEさんの絶叫だった。

それきり、Eさんと連絡がつかなくなり、同僚達は心配した。
警察に連絡しようという話になり、課長が電話をなけようとした時、ハングアウト会議にEさんが舞い戻ってきた。

「おい、大丈夫か?」
「・・・すいません、心配かけました」
そう言ったEさんの目はトロンとして濁っていた。
どこか遠くを見ているようだった。
何より同僚達を動揺させたのは、Eさんの背中から腕を回すように肩にもたれかかる黒髪の女性の存在だった。
やはり本人が照れているだけでEさんの彼女なのだろうか。
それにしては、奇妙だった。
女性は、挨拶するわけでもなく、ただEさんの肩に乗っているだけ。
異様な光景だった。
同僚達は、恐ろしくて誰も問い質せなかった。
強面の課長でさえ、「何もないならいいよ」と歯切れが悪い。

その後、Eさんは以前と変わらずきちんとオンライン会議に姿を現した。
仕事が滞ることもなかった。
けど、相変わらず胡乱な目つきをしていて、肩には黒髪の女性を負ぶっていた。

Eさんの同僚達は、自粛が明けて、オフィスでEさんと顔を合わせるのが怖くてしかたないという。

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