【怖い話】強引な男

こうと決めたら周りの意見に耳をかさず突っ走る、そんな人が誰しも周りに1人はいるのではないだろうか。
僕の高校の同級生のGくんも、そんなタイプの1人だった。
おとなしそうな見た目と裏腹に頑固で融通がきかない。
だから、敵も多かった。
Gくんのひととなりがわかる例として有名な話に「文化祭事件」がある。
僕たちの3年A組は秋の文化祭で、お化け屋敷をやることが多数決で決まっていた。
頑として反対の立場をとったのはGくんだった。
Gくんは、教室を暗くすることによって高齢者や子供の事故リスクがどれくらいあがるかという詳細なレポートを作り、実際の事故事例も載せて、先生に提出した。
それによって、お化け屋敷の企画を考え直すよう先生から指示が出た。
はじめはGくんへの反発心から嫌がった数名も、Gくんが全く譲る気がないのを知り、根負けした。
結局、A組は、Gくんがやりたがっていた喫茶店をやることになった。

Gくんは、一時が万事、その調子だった。
みんなで集まってテスト勉強をするとGくんが決めれば、クラスメイトが無理やり集合させられる。
修学旅行の自由行動もGくんが行きたい場所になった。
もちろん、みんな抵抗しようとはする。
言い訳をして、Gくんから逃げようともする。
けれど、Gくんはそんなのお構いなしに、自分の思い通りになるまで、他人がどんなに傷つこうと、周りにどんな迷惑をかけようと止まらない。
Gくんの周りの人々は、これ以上、被害を広げないよう、諦めてGくんのいいなりになるという選択肢を選ぶしかない。
ガキ大将やいじめっ子とは決して違う。
力づくでどうにかしようとするわけではない。
けど、こうすると決めている人間の考えを変えるのは、想像する何倍もエネルギーを使うことなのだ。

そんなGくんでも、たった一つだけ自分の思うようにならないことがあった。
恋愛だ。
Gくんは、同じクラスのN子さんに交際を申し込んだのだけど、N子さんはきっぱり断った。
Gくんらしく、その後も諦めず、機会をうかがっては何度もN子さんに告白したが、N子さんの答えが変わることはなかった。
伝聞で聞いたところでは、N子さんは、Gくんのことを生理的に受け付けないとまで言っていたそうだ。
いくらGくんでも、女性の恋愛感情までは思い通りにできなかった。
これに、日頃からGくんの横暴の被害にあっていた周りの生徒達は喝采の声をあげ溜飲を下げた。
すると、N子さんの一件以来、Gくんに変化が起きた。
図書館にこもって勉強に打ち込みだし、人との関わりを避けるようになった。
Gくんに気兼ねする必要がなくなり、クラスメイトはこの変化を大いに喜んだ。
そうこうしているうちに大学受験があって、卒業式を迎え、Gくんとはお別れになった。
卒業式の時も、Gくんはみんなの輪から外れ、別れを惜しむクラスメイトにも混じらず、いつのまにか姿を消していた。
N子さんによってプライドをへし折られてしまったのが原因なのだろうか。
あまりの変貌に、Gくんを毛嫌いしていた人から同情する声も上がったくらいだった。

それから15年。僕は30を過ぎた。
ある日、家に帰ると、結婚式の招待状が届いていた。
Gくんからだった。
僕は驚いた。
高校卒業以来、Gくんのことを思い出すことはほとんどなかった。
たまに同級生と会った時に、そういえば、と話題に上がる程度だった。
誰もGくんのその後を知らなかった。
クラスこそ同じだったが、もともとそれほど交流が多かったわけではないので、結婚式に招待されたのは意外だった。
Gくんから招待が来たということは、出席せずにはいられないのだろうなと思った。
断ろうとしても、はじめから行くと言えばよかったと後悔するまで、しつこく理由を尋ねられかねない。

結婚式当日。
式場までの道すがら、何人かの同級生と会った。
みんな断れないとふんで参加を決めたのかと思ったが、理由はそればかりじゃなかった。
僕はGくんの結婚自体には微塵も興味なかったので、相手の名前すらちゃんと見てなかったのだけど、相手は、N子さんだったのだ。
N子さんに招待されたので、参加を決めた同級生が相当数いた。
実に15年という時間をかけて、GくんはN子さんを射止めたのだ。
僕は、あんぐり口を開けるほど驚いた。
N子さんと仲が良かった同級生から、2人のなれそめを聞き、僕はさらに呆気に取られた。

N子さんは、もともと別の男性と結婚していたらしい。
ところが、その旦那さんが心筋梗塞で急逝してしまい、N子さんは幼い子供とともに残された。
途方にくれたN子さんのもとに現れたのがGくんだった。
猛勉強の末、医学部に進み、医師になっていたGくんは、N子さんが住む街の総合病院に赴任していたらしい。
N子さんは知らなかったが、旦那さんを診察したこともあったらしい。
暮らしの先行きに不安しかないN子さんの前に、かつて自分に猛アプローチしてきた男が裕福な医師としてあらわれた。
GくんとN子さんが接近するのは時間の問題だった。

話を聞き終えた僕は、腕に鳥肌が立っていたのに気づいた。
背中に寒気を感じた。
・・・どこまでが偶然なのだろうか。
Gくんは15年前の時点でこの結婚までの道筋を計算していたのではないか、そんな気がしてならなかった。
高校の時、N子さんの件以外で、Gくんが自分の意見を通さず諦めたのを一度も見たことがなかった。

・・・もしかして、N子さんの旦那さんはGくんに殺されたのではないか。
Gくんが、そこまでやっていたしても、僕は不思議じゃなかった。
猛勉強して医学部に入って医師になったのも、邪魔者がいた場合、バレない殺し方を学ぶためだっとしたら・・・。
普通の人間ならこれほど遠回りな方法を取るはずがない。
けどGくんは違う。
自分の思い通りにするためなら、どんな我慢も入念な準備もできる男だ。
僕の妄想に過ぎない。けど、心ではそうに違いないと感じるものがあった。

式が始まった。
GくんとN子さんがチャペルで向き合う。
Gくんは15年前と変わっていない。
N子さんは年相応に顔が変わっていたが面影はあった。
2人とも幸せそうに見える。
だけど、僕の妄想は膨らむ一方で、胃がムカムカしてきた。
僕の考えが事実なら、この結婚は欺瞞でしかない。

披露宴の途中だけど、僕は体調不良を理由に帰ろうと思った。
Gくんと話すのが怖かった。
ちゃんとお祝いの言葉を述べる自信がなかった。
帰る前にトイレで小用を足していたところ、隣に誰かがきた。
「久しぶり」
声をかけられ僕は飛び上がりそうなほど驚いた。
Gくんだった。
「・・・」
僕は固まってしまい返事に詰まった。
「なんだよ。幽霊でも見たみたいな顔して」
「いや・・・お・・・おめでとう」
なんとかそれだけ言った。
「今何やってるんだっけ?」
Gくんは僕の変な態度を気にする素振りもなく続けた。
「税理士やってる」
「ふーん。結婚は?」
「してるよ」
「子供は?」
「まだいない」
「・・・そうか。決めた。今度遊びに行くよ」
と言って、僕の方を見たGくんの目は見開かれて爛々と輝いていた。
その目を見て僕は戦慄を覚えた。
Gくんは、僕がGくんの遠大な計画に気づいたことに気づいている。
Gくんは今度は僕の人生を思うままにするつもりに違いない。
僕は、自分の人生が崩壊する音を聞いた・・・。

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