Facebookの怖い話

Bさんは、商社の人事部に勤める34歳。
この春、Facebookを始めることにした。
SNSはあまり好きになれず今まではあえてやってこなかった。
けど、この時世、新しい人材がSNS経由で見つかることも少なくないと聞く。
ちょうど中途の積極採用を始めるタイミングでもあり、先輩からのアドバイスもあって、まずはFacebookから手をつけてみることにした。
アカウントを作成し出身地などのプロフィールを入力すると、地元の同級生達のアカウントが知り合いかもとオススメされた。
フォローしてみると、すぐに「久しぶり」といろんな旧友からメッセージがきた。
卒業以来顔を合わせていない旧友たちとSNS上で繋がるというのは不思議な気持ちだった。
フォロワーは、あっというまに数十人になった。
ランチやディナーの料理を写真に撮ってアップすれば、たくさんの「いいね」がついた。
仕事やプライベートのちょっとした悩みを投稿すれば、コメントでアドバイスをもらえた。
Bさんは、たちまちFacebookにはまっていった。
気づけば、休憩中や寝る前には必ずFacebookをチェックするようになった。

そんな、ある日のこと。
Bさんのアカウントをフォローしてきた人がいた。
相手のプロィールを見ると、中学校の同級生のCさんだった。
中学校時代、一番仲良くしていた友達だった。
クラスも同じで部活も同じバスケットボール部。
Bさんの中学校生活は、Cさんとほとんど一緒にいたといっても過言ではなかった。
けど、別の高校に通うようになってからは、「忙しいかな」と変に気を使ううちに連絡の機会が減り、大学入学でBさんが上京してからは没交渉になっていた。
成人式にCさんの姿はなく、久しぶりにかけた携帯電話の番号は変わってしまっていた。
頭の片隅でずっとCさんの存在が気になっていたBさんは、Cさんがフォローしてくれたことが嬉しくて、さっそくフォローを返し、「久しぶり」とコメントをした。

それ以来、Bさんは、コメントでCさんとやりとりをするようになった。
お互いの仕事の話や近況などをメッセージで送りあった。
Cさんのアイコンの顔写真を見ると長い年月を感じた。
わんぱく坊主で、イタズラをしては、いつも目を細めて笑っていたCさんの顔は大人に変わっていた。
額が広くなって、皺もでき始めている。
でも、面影は確かにあった。
Bさんは無性にCさんに会いたくなった。
Cさんは地元を離れ、関東近郊に住んでいるらしい。
「今度、会わないか」とメッセージを送ってみた。
すると、2日ほど空いてから、「悪い。今は仕事が忙しくて」と返事がきた。
医療関係のメーカーに営業職として勤めているらしいので、言葉通り多忙なのだろうけど、もしかして自分と顔を合わせたくないのかなともCさんは感じた。
もしそうなのだとしたら、寂しい話だ。
それからも、お互いの投稿への「いいね」のリアクションや、メッセージのやりとりは続いた。
ある日、Cさんがスポーツジムの外観写真をFacebookに載せていたので、Bさんは「バスケットはまだやってる?」とメッセージを送った。
無類のバスケット好きだったCさんだ。
バスケットのゲームに誘えば、会ってくれるかなという期待もBさんにはあった。
「バスケはもうやっていない。ジムで定期的に泳ぐくらいだよ」
その返事に、Bさんは少し引っかかった。
Cさんは運動神経が抜群だったが、一つだけ弱点があった。それは、泳げないことだ。泳ぎ方が下手とかではなく、子供の頃に海で溺れかけたので、泳ぐのが怖いという心理的な理由だった。だから小学校の水泳の授業も全て見学していたのだとCさんが話してくれたのをはっきり覚えている。
トラウマを克服したのだろうか。
そういうこともあるだろうし、むしろ良い話のはずなのだけど、Bさんの心はモヤモヤとした。
「泳げるようになったの?」というメッセージを書きかけたが、結局、送るのをやめた。

そのやりとりから2ヶ月経った後、別の中学校の同級生から、地元に残ったメンバーで今度飲み会を開くから良かったら来てというメッセージがFacebookに届いた。
Bさんは、Cさんに参加するのか聞いてみた。
けど、そのメッセージに対する返信はいくら待っても届かなかった。

Bさんは地元の飲み会に参加してみることにした。
スケジュールも空いていたし、Cさんと交流を続けているクラスメイトが来ているかもしれない。
結婚していたり子供ができていたり生活環境はそれぞれ大きく変わっていたけど、不思議なもので、社会人になってから出会った同世代と違い、みんな若々しく見える。
みんなの顔の中に、昔の面影を探すからなのかもしれないし、その時間だけは子供の頃の気持ちを取り戻すからかもしれない。
お酒が回ってきた頃、BさんはクラスメイトにCさんと今でも連絡を取っているか尋ねてみた。
すると、クラスメイトの顔がにわかに陰った。
「Bは知らなかったんだっけ」
「え・・・」
「Cな、去年、交通事故で亡くなったんだよ」
Bさんは言葉を失った。
そんなわけがない。
Cさんが亡くなっているとしたら、Facebookで繋がっている人物は誰なのだ。
心臓をハンマーで直に殴られているかのような衝撃をBさんは受けた。
クラスメイトにCさんのFacebookアカウントを見せた。
クラスメイト達も一様に言葉を失ったようだった。
「でも、俺たちCの葬式に出たんだぜ」
1人のクラスメイトが重たい口を開く。
「・・・これさ、なりすましじゃないか」
偽のアカウントを使って、SNS上で他人になりすます行為。
Bさんも話では知っていたが、自分の身近で起きている現実が信じられなかった。
しかも、Bさん以外の誰もCさんのFacebookアカウントと繋がっていないことがわかった。
「怪しい投資話とかもちかけられなかったか」
Bさんは首を振った。
何気ないやりとりばかりで、仕事の話が話題にのほってもビジネスに繋がるような話をCさんからしてきたことはなかった。
Bさんは、みんなが見ている前で、「あなたは誰ですか?」というメッセージをCさんのアカウントに対して送ったが、お開きになるまでに返事はこなかった。
「誰が何の目的で、こんなことしてるんだろうな」
その場にいた全員が気味の悪さを感じていた。

地元での飲み会から1ヶ月経っても、Cさんから返事はこなかった。
けど、その間もCさんのFacebookは更新され続けていた。
立ち寄ったレストランの料理、休日に行った映画のチケット画像など、日常の更新が続いている。
もうチェックするのをやめようと思うのに、つい気になって見てしまう。
そのうち、Bさんは恐ろしいことに気づいてしまった。勘違いであって欲しい。自分の被害妄想であって欲しい。でも、一度気づいた法則は破られない。

日々、更新されるCさんのFacebook画像の撮影場所が、だんだんと都内のBさんの自宅に近づいてきていたのだ・・・。

はじめ紹介されていたのは茨城のお店やスポットが中心だったのに、しばらくすると柏や松戸など千葉北西部に移った。さらに時間が経つと、都内の金町や亀有に移った。
それから、皇居方面に移動していき、皇居を超え、新宿を超え、中央線沿線を八王子方面に下り始めた。
Bさんが住んでいるのは、その中央線沿線の三鷹駅だった。

本当に単なる、なりすましなのか。
Bさんの心は日々、不安が増していった。
考えすぎだ、偶然だと自分に言い聞かせても胸のつかえは取れない。
この奇妙な出来事を人にどう説明すればいいのかわからず、誰にも相談できずにいた。

そして、とうとう、CさんのFacebookに三鷹駅前の居酒屋を紹介する投稿がアップされた。
その投稿に添えられたメッセージに、Bさんの背筋が凍った。
『今日は旧友に会いにいく』
その瞬間、Bさんの部屋の玄関チャイムが鳴る音が聞こえた・・・。

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