【怖い話】【怪談】ハロウィンの子供

何年前からだろうか。
近所に住む子供達が、毎年10/31のハロウィンの日に、仮装をしてお菓子をもらいに来るようになった。
その地域の子供会の保護者が企画したものが恒例化したらしい。
ドアを開けるとゾンビや魔女などの仮装をした子供達がズラリと並び、「お菓子をくれないとイタズラしちゃうよ」と唱える。
まるで、映画の中で描かれているアメリカのベッドタウンのような光景にはじめは面食らったものだが、気づけば、子供達が来るのを楽しみにお菓子を用意している自分がいた。
今年も大勢の子供達がお菓子をもらいにきてくれた。
配り終えたお菓子の残りを片付けていると、玄関のチャイムの音がした。
出ると、カーテンのような布切れを頭から全身にすっぽり被って目の部分だけ穴を開けた子供が立っていた。身長は140cmくらいだろうか。
お化けの仮装なのだろうか。
1人で来たということは、みんなから出遅れてしまったのかもしれない。
お化けの子供は、黙ったまま、ジッと私を見上げていた。布切れにあけられた穴から二つの相貌が私を見つめている。
「お菓子、もってくるね」
私はそう言い、居間に引き返して、お菓子を手に振り返った。
びっくりしてお菓子を取り落としそうになった。
お化けの仮装の子が勝手に家の中に入ってきて、すぐ後ろに立っていたのだ。
勝手に人の家に上がり込むなんて親はどんな育て方をしてるんだと内心イライラしたが、私は微笑みを浮かべ、お菓子を子供に手渡した。
「はい、どうぞ」
お菓子を受け取った子供は、「ありがとう」もなにも言わず、黙って手に握ったお菓子を見つめている。
お礼が欲しいわけではないが、少し引っ掛かった。
もしかしたら、少し変わった子なのかもしれない。
よく見ると、被っている布切れもあちこち汚れている。
私は心がざわついた。
子供はお菓子を受け取っても帰ろうとしなかった。
布切れ越しにフーフーという荒い息遣いが聞こえる。
息遣いに合わせて、腐った泥水のような口臭が漂ってきた。
布切れに空いた穴から血走った二つの目が、こちらを覗いている。
その時、私は気づいた。
お菓子を握る手。
何本も浮かんだ血管、骨ばった太い指。
子供の手ではなかった。
そう思った瞬間、子供が被っていた布切れを脱ぎ捨てた。
現れたのは、髭を生やした40代くらいの小男だった。
威嚇する犬のように歯を剥き出していて、人間離れしたとがった耳をしていた。
そして、お菓子とは逆の手に握りしめた包丁がキラリと光った。
私は思わず悲鳴を上げた。
声の大きさにひるんだのか、小男は背を向けて逃げていった。
私は恐怖から腰がくだけてしまった。

その事件からしばらく経っても、警察から小男を逮捕したという連絡はなかった。
アレは本当に人間だったのだろうか。
もしかしたらハロウィンに現れた本物のモンスターだったのかもしれない、と最近では思っている。
もうすぐ今年もハロウィンがやってくる。

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