【怖い話】【怪談】募金の子供

「募金お願いします!」
駅前を歩いていると赤い羽共同募金の子供達の大きな声にハッとする。
そんな経験が、誰しも一度はあるのではないだろうか。

そんな街頭募金に関する怖い話を今日はご紹介しよう。

都内在住の会社員Gさんの話だ。

Gさんは、メーカーの営業職。
30代に突入し、毎日忙しく働いていて、寝不足は慢性的。しょっちゅう欠伸を出している。
仕事中に居眠りなどできないので毎朝駅前のコンビニでカフェイン入りのエネルギーチャージ飲料を飲むのが習慣だった。
「・・・募金お願いします」
いつものように駅前をボーッとした頭で歩いていると子供の声にハッとなった。
募金箱を抱えた10歳くらいの男の子が1人で立っていた。
その光景自体は不思議なものではない。
けど、Gさんはその少年になにか引っかかるものを感じた。
黄色い帽子を目深にかぶって顔が見えないからか、声に張りがなくボソボソとしているからか、大人の引率もなく子供が1人で街頭で募金活動をしているからか、理由はよくわからない。
ただ、拭えない違和感を覚えた。
Gさんは、横目で少年を見ながら、通り過ぎた。
一度、振り返ってみたが、男の子に募金をする人は1人もいなかった。

出社して忙しなく働くうち朝の募金の男の子のことはすっかり忘れた。
その日も帰りは終電間際だった。
駅の改札を抜けると、Gさんはギョッとした。
「・・・募金お願いします」
ボソボソとした子供の声。
朝と同じ、黄色い帽子を目深に被った少年が募金箱を抱えて立っていた。
まさか、こんな子供が朝から今までずっと募金活動を続けていたのか?一瞬、そうも思ったが、現実的にありえないな、と考え直す。
けど、12時近いのに、親は心配しないのだろうか。Gさんは不思議だった。
クタクタに疲れていたし、Gさんは、朝と同じようにチラチラ少年をうかがいながら横を通り過ぎていった。
募金をしようという気にはならなかった。

翌朝。
駅までの道を歩いていたGさんは、昨日の募金の少年が道に立って募金活動をしているのを見かけた。
駅にはまだだいぶ距離があるし、人通りもそれほど多くないのに、なぜこんなところで募金活動をしているのか理解に苦しんだ。
ワケのわからなさが気味が悪くて足早に通りすぎようとした時、すれ違い様、「・・・募ぉ金お願いしまぁす」と少年が声を発した。
周りには誰もいない。
明らかにGさん1人に呼びかけていた。
存在も不気味だが、ボソボソと抑揚のない声もなんだか薄気味悪かった。
Gさんは、駆け足で駅に向かった。
今日は一度も振り返らなかった。
振り返ったら、すぐ目の前に少年が募金箱を抱えて立っているのではないか、バカバカしいが、そんなイメージが頭に浮かんだ。

その後、いつものようにエネルギーチャージ飲料を飲んで電車に乗り込み、会社近くの駅で人込みから吐き出されたGさんは、会社に向かう道の途中で思わず足を止めた。
「ぼぉぉきん、おねがぁぁいしまぁぁす」
信じられないことに、自宅近くで募金活動をしていた例の少年が道端に立っていたのだ。
俯いたまま、
「ぼぉぉきん、おねがぁぁいしまぁぁす」
と間延びしたボソボソ声で機械的に繰り返している。
男の子を通り過ぎて電車に乗ったはずなのに、いつの間に抜かれたのか、わけがわからなかった。
しかも、家の最寄り駅だけでなく会社近くでも会うなんて、まるでGさんをつけ回しているようではないか。
Gさんは鞄を抱えて逃げるように小走りで会社に向かった。

その日は、一日中落ち着かなかった。
デスクワークが中心の日だったが、会社の建物から出た瞬間、募金の少年が待ち構えているのではないか。そんな気がして、寒気が走る。

気持ちを落ち着けようとトイレに向かった。
個室に入って、ひとごこちつく。
その時だった。
「ぼぉきぃん、おぉねぇがぁいぃしぃまぁす」
個室のドアを隔てた向こうから声がした。
飛び上がりそうなほどGさんは驚いた。
いくら社会活動だからといって、会社の中に入ってこれるわけがない。
なんなんだ、あの子は・・・。
Gさんは、耳を塞いで声が収まるのを待った。
しばらくして、手を耳から外すと声は止んでいた。
恐る恐るドアを開けて外を見る。
誰もいない。
ゆっくりドアを開けていき、トイレに本当に誰もいないのを確認して、個室から出た。
疲れていて、現実にはいない子供を見てしまっているのかもしれない。
顔を水でバシャバシャ洗って気持ちを切り替え、Gさんが顔を上げたその時だった。
「ぼぉぉぉきぃぃん、おぉぉねぇぇがぁぁいしぃぃまぁぁすぅぅ」
誰もいなかったはずの背後から声がした。
トイレの鏡に例の男の子が黄色い帽子を目深に被って立っていた。
Gさんは、悲鳴をあげて、尻餅をついた。
尻餅をついたGさんに覆い被さるように男の子が顔をグーッと近づけてきて、「ぼぉぉぉきぃぃん・・・」と繰り返した。
Gさんは死に物狂いでポケットから財布を取り出すと、「募金するから!するから!」と叫びながら、千円札を目の前の募金箱に入れた。
すると、男の子は静かになった。
どうやら募金をするのが正解だったらしい。
去っていこうとする男の子に、Gさんは反射的に尋ねた。
「・・・それ、何の募金なの?」
すると、男の子は小さく振り返り、ニィィと口角を上げて笑い、去っていった。
以来、Gさんがその募金の男の子を見かけることはなかったという。

#478

-怖い話