【怪談】【怖い話】Sくんの家

これはボクが小学生の頃に体験した奇妙な話です。

同級生にSくんという男の子がいました。
どういう経緯で仲良くなったのか忘れてしまいましたが、ある日、ボクはSくんの家に遊びにいくことになりました。
放課後、一度自宅に帰ってランドセルを置くと、Sくんの家に向かいました。
Sくんの家は学区のはずれにある一軒家でした。
周りは雑木林しかなくて、さみしい場所でした。
「さ、あがって」
Sくんに言われて玄関の扉をくぐった瞬間、言葉では言いあらわしようのない気味の悪さを感じました。
家が汚いとか、どこかおかしいとかではないのです。
むしろそれまで見たことないほどピカピカで、余計な調度品や家具がなく整っていました。
なのに、家の中に入った瞬間、不安と不快さを感じました。
家が放つオーラとでもいうのでしょうか。
靴を脱ぐのをためらっているとSくんは不思議そうな顔でボクを見つめました。
子供ながらにボクは失礼がないよう、なにもなかったかのように演技をして、靴を脱いであがらせてもらいました。
家に上がると、背筋がゾワゾワするような不安感は減るどころか増す一方でした。
廊下を歩くたび、泥沼に足を突っ込んでしまったように足が重く、だるさを感じました。
こんなキレイなおウチなのに、なんでボクはそんな気持ちになるのか、自分の神経を疑うほどでした。
ボクは2階にあるSくんの部屋に連れていかれました。
Sくんの部屋は、ボクの部屋よりよほど整理されていて、本や教科書は棚にきちんと入っていて、ベッドはホテルの部屋みたいに整っていて、芳香剤なのかほんのりいい香りがしました。
ところが、そこでもボクは強烈な気味の悪さを覚えたのです。
吐き気がするほどでした。
額に脂汗が浮かんでいるのがわかりました。
Sくんは、そんなボクの様子には気づいてないみたいで、「ゲームでもする?」と笑っていいました。
ボクたちはしばらく2人でできるテレビゲームをしました。
ボクは普段ゲームが得意なのですが、その日はまるっきり調子がでなくて、Sくんに負けっぱなしでした。
しばらくゲームをすると、Sくんが言いました。
「お腹空かない?なにかもってくるね」
Sくんは一階のキッチンに向かい、ボクは1人で部屋に残りました。
言い知れぬ不安感は一向に消えませんでした。
ここにいたらいけない、早く帰ろう。
そんな心の声が何度も聞こえそうでした。
Sくんは炭酸ジュースとお菓子を持って戻ってきました。
ボクたちは無言でお菓子を食べ、ジュースを飲みました。
気づまりな沈黙を破りたくてボクはとりあえず気になっていたことをSくんにたずねました。
「そういえば、Sくんのお母さんは?」
「いないよ。今日はボクたち2人だけ」
「ふーん」
そんなことをたずねたのには、ある理由がありました。
家へ入らせてもらってから、ずっとボクとSくん以外の人の気配を感じていたのです。
その感覚はSくんの部屋にいても変わりませんでした。
誰かに視られているような、そんな気配をずっと首筋のあたりに感じていました。
何か理由をつけて帰ろうか、そんなことを考えていた時です、、、。

ギッ ギッ ギッ

廊下を歩く足音がしました。
「あれ?やっぱり誰かいるんじゃない?」
そうSくんに聞くと、Sくんには足音など聞こえていなかったのか、
「そんなはずないよ、今日は誰もいないよ」
という返事がかえってきました。
そう言われて、ボクは納得するしかありませんでした。
ジュースを飲んだせいかお手洗いに行きたくなりました。
Sくんにトイレを借りたいと申し出ると、廊下の突き当たりにあるよ、と教えられました。
ボクはSくんの部屋を出て、廊下を奥に進んでいきトイレに入りました。
用を足していると、また、足音が聞こえてきました。

ギッ ギッ ギッギッ

廊下をこっちに向かって歩いてくる足音です。
「Sくん?」
呼びかけても返事はありませんでした。
足音はトイレの前でピタッと止まりました。
用は足し終えましたが、今出たら足音の主とでくわしてしまいます。
「・・・Sくん?」
そうあって欲しいという気持ちで再度声をかけても返事はありませんでした。
きっとSくんがボクをおどかそうとしているんだ、そう思うのですが、いざトイレのドアを開けて出ようとする勇気がわきませんでした。
ドアを開けたら、ボクはとんでもなく恐ろしいモノを目にするのではないか、そんな気がしてなりませんでした。

でも、いつまでもトイレに籠るわけにはいきません。
ボクは恐る恐るドアを開け、隙間から廊下を見てみました。
ドアの前には誰も立っていませんでした。
やはり足音は気のせいだったのかな、神経が少し過敏になっているのかもしれない、そう思ってSくんの部屋に小走りに戻りました。
けど、部屋に戻ると、Sくんの姿がありませんでした。
またキッチンに行ったのかとしばらく待っていましたが、一向に帰ってくる気配がありません。
・・・なにかおかしい。なにかがおかしい。
またゾクリとする恐怖が胸を突き抜けました。
その時でした。

ギッ ギッ ギッ

トイレがある廊下の奥の方から足音がしました。
まるでさっきまでトイレの前にいた存在が引き返してきたようでした。
このまま歩いてきたら、この部屋に入ってくるのではないか、ハッとそう気づきました。

ギッ ギッ

怖い、怖い、怖い。
ボクはもはやその場にいられず、Sくんの部屋を飛び出し、階段をかけおりて、そのまま靴をつっかけて家から逃げました。一度も振り返ることはしませんでした。

その後、Sくんと会うことはなかったような気がします。同じ学校なので一度も顔を合わせないことはないと思うのですが、記憶はおぼろげでした。

最近、数十年ぶりに小学校の同窓会がありました。
ボクはクラスメイトにSくんの所在をたずねてみました。変な別れ方をしたので、心のどこかでずっと引っかかっていたのだと思います。
クラスメイトは不思議そうな顔をしていいました。
「Sって誰だよ。そんなやついないだろ」
Sくんという同級生など存在しなかったのです。
けど、あの時の恐怖は本物でした。
ボクは一体誰と遊んでいたのか。
それを思うと今でも身震いがします。

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