六本木のホテルの怖い話

出張で六本木のビジネスホテルを使った時の話だ。
会食終わりで部屋に戻ったのは夜遅くだった。
セミダブルのベッドで横になって、リモコンでチャンネルを変えながらボーッとテレビを見てうつらうつらしていた。
ふと、画面に、おかしなモノが映った気がして、ハッと目が覚めた。
一瞬だったのではっきりとわからなかったが、見知らぬ男女が今泊まっているホテルと似たような部屋にいる映像だった気がする。
ブラウン管時代のような画質の悪さで砂嵐混じりだった。
まるで、部屋を盗撮しているみたいな、、、。
変なVODでも見てしまったのかと思って、慌ててチャンネルをいじったけど、その映像が映ったチャンネルは二度と見つからなかった。
釈然としない気持ち悪さがあったけど、酔っていたのもあって、そのまま眠ってしまったらしい。
気がつくと、深夜3時になっていた。
シャワーでも浴びようと思って、ベッドから降りようとして、思わず足を止めた。
テレビ画面に、さっき見た、粒子の荒い部屋の映像が映し出されている。
男女がベッドに並んで座っている。
何かしゃべっているようだが音声は全く入っていない。
一体何の映像なのか、取り憑かれたように画面に見入った。
詳しくはないけど、電波のイタズラでどこかの部屋の隠しカメラの映像を受信してしまっているとか、そういうことなのだろうか?

・・・何分くらい見ただろう。
映像に変化はない。
と思った矢先、画面の中の男がバッグからナイフを取り出し、女性のお腹に力一杯刺した。
女性は苦悶の表情を浮かべてベッドに仰向けに倒れた。
お腹のあたりが真っ赤に染まっていく。
粗い映像なことが余計にリアリティがあった。
なんだこれ、スナッフビデオか何かなのか、、、。
男は女性に馬乗りになって何度もナイフで刺している。
吐き気が込み上げてくるのを感じた。
男がクルッと向きを変えて、カメラの方に向き直った。
男と画面越しに目が合う。
立ち上がり、カメラの方に男が歩いてくる。
ゆらゆらと身体を揺らしながら。
嫌だ・・・こんなの見てたくない・・・。
画面上の男がどんどん大きくなってくる。
返り血で顔は真っ赤だった。
下から睨みつける目は白目がちで、狂気をはらんでいた。
このままだと男が画面から出てくるのではないか、そんな気がして鳥肌がブワッと立つのがわかった。
慌ててテレビのリモコンを探した。
こんな時に限ってリモコンが見つからない。
男の顔がアップに映る。
シーツに絡まったリモコンを見つけた。
適当な数字を押して、、、
チャンネルを変えたはずだった。
けど、男は画面に映ったままだった。
別の番号を何度も押す。
たしかにチャンネルが切り替わっているはずなのに、男は映ったままだ。
・・・なんなんだよ、これ。
ついに男の目が画面いっぱいに映ったと思った次の瞬間、、、
「なに見てんだよ」
そう声が聞こえた気がした。

気がつくと朝だった。
昨日の夜の恐怖は鮮明に覚えていた。
酔っていて寝ぼけたのだろうか、、、
とにかく気味が悪いので早くチェックアウトしようと思い、シャワーを手早く浴びて、新しいシャツに着替えようとしてゾッとした。
シャツがズタズタに切り裂かれていたのだ。
鋭利な刃物で切りつけたとしか思えなかった。
僕はシャツを部屋に置いたまま、逃げるように部屋を後にした。
それ以来、六本木に出張しても、そのホテルは使っていない。

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