伊勢神宮の怖い話

 

伊勢神宮は、三重県伊勢市にある神社で、
「太陽」を神格化した天照坐皇大御神(天照大御神)を祀る皇大神宮と、衣食住の守り神である豊受大御神を祀る豊受大神宮の二つの正宮があり、一般に皇大神宮は内宮(ないくう)、豊受大神宮は外宮(げくう)と呼ばれている。
伊勢神宮は1つの大きな神社ではなく、外宮と内宮を中心とした125の宮社の総称をいい、古くから「お伊勢さん」の愛称で親しまれ、江戸期には「一生に一度は行ってみたい」と言われるほど、お伊勢参りがブームになった。
内供に祀られている天照大御神は皇室の御祖神でもあり、
日本で最も神聖な聖域といっても過言ではない。
「おはらい町」と呼ばれる内宮に続く鳥居前町には、昔ながらの風情を残した木造建築が並び、観光スポットとして、連日多くの観光客が訪れている。
伊勢名物『赤福』の本店があることでも有名だ。

これは、そんな伊勢神宮で大学生のCさんが体験した怖い話・・・。

Cさんは、軽音楽サークルに入っていたが、ある時、サークル仲間4人で伊勢神宮にいこうという話になった。
女性メンバーはCさん、Dさんで、残り2人は男性メンバーのEさん、Fさん。
どちらも彼氏彼女ではなかったがダブルデートのような形であった。
「おはらい町」の赤福本店でできたての赤福もちを食べたり散策をしながら伊勢内宮を目指した。
色々なお店を回るうち、DさんとEさんがいい感じの雰囲気になっていった。
そんな2人を微笑ましく見守り、時には茶化しながらCさんとFさんは2人に続いた。

やがて、「おはらい町」を抜け、ようやく宇治橋前の鳥居にさしかかった。
・・・その時だった。
ついさっきまで明るく笑っていたDさんの表情が急に曇った。
体調が悪そうで、秋だというのに大量の汗をかいている。
「大丈夫?」
すっかりEさんの彼女のような感じになったDさんが甲斐甲斐しくEさんの様子を見る。
Eさんは気分が悪いと言って近くのベンチに座り込んだ。
いくら待ってもEさんの体調はよくならなかった。
どこが悪いのか尋ねても「ウンウン」唸るばかりではっきりしなかった。
せっかく来たのにお参りしないで帰るのももったいないので、CさんとFさんの2人だけでお守りを買いにいくことになった。
人混みを縫って慌ただしくお守りだけ買って戻ってくると、Eさんはまだ体調が悪そうだった。
しかたなく4人は参拝を諦めて帰ることにした。
ところが、「おはらい町」の道を戻っていき伊勢神宮から離れていくと、Eさんの体調はケロッと回復した。
さっき以上のハイテンションで、Dさんに絡んでいき、見ているこっちが恥ずかしくなりそうなイチャつきぶりだった。

伊勢から帰って数日後、DさんからEさんと交際することになったとCさんは報告を受けた。
伊勢神宮にちゃんとお参りできなかったのが心残りだったけど、友達の幸せが成就したのだと思えば納得もいった。

それから2ヶ月が経った頃、事件が起きた。
Eさんが自宅アパートでDさんに殴る蹴るの暴力をくわえ、全治3ヶ月の重傷を負わせたのだ。
Eさんは駆けつけた警察に逮捕された。
あんなに仲がよかったのになぜ、とCさんとFさんは不思議でしかたなかった。

CさんとFさんは、落ち着いた頃、Dさんのお見舞いに病院を訪れた。
顔を腫らして傷だらけのDさんを見て、CさんとFさんは心が痛んだ。
2人ともと仲がよかったのに全く兆候に気がつかなかった自分達を責めた。
「・・・彼、まるで人が変わったみたいだった」
Dさんが、腫れ上がってまだよく動かない口を懸命に動かし、話を切り出した。
交際当初は順調だったのに、次第にEさんの暴力が始まったという。
急に豹変して怒りだし、雨のように拳をふるうEさんは、「まるで何かに取り憑かれているみたいだった」とDさんは表現した。
「それ見て・・・」
Dさんはベッドの横の棚に顔を向けた。
伊勢で4人で買ったお守りが置かれていた。
けど、DさんとEさんのお守りは、火で炙ったかのように黒ずんでいた。
「彼の様子がおかしくなっていくほど、お守りに異変が起きていったの」
「そういえば・・・」
黒ずんだお守りを手にしたFさんが思い出したように言った。
「あの時のE。鳥居をくぐるのを嫌がっていたように見えなかったか」
たしかにEさんの体調がおかしくなったのは鳥居の目の前だった。
「鳥居は邪悪なものが入ってくるのを防ぐというから、もしかして本当にEは何かに取り憑かれていて、鳥居の中に入って来れなかったのかもな・・・」
友達だったEさんの豹変に何らかの理由をつけたいだけだと3人ともわかっていた。
けど、Cさんは、黒ずんだお守りをみて、単なる偶然では片付けられない不吉な気配を感じたような気がした。

・・・数年後。
社会人になったCさんは、中堅メーカーで朝から晩まで忙しく働く日々を送っていた。
Dさん達との交遊は大学卒業まで続いたけど、社会人になると、連絡を取る頻度は次第に少なくなっていった。
もちろん忙しいのも理由だったけど、Eさんの事件のことがみんなの心に、魚の小骨のように引っかかっていて、顔を合わせるのを避けていたような気がした。
そんな折、Fさんから、Eさんが服役を終えて刑務所から出所したので、
久しぶりにみんなで会わないかと連絡が入った。
DさんがEさんと顔を合わせるのは無理だろうとCさんは思ったけど、みんなで会うことを発案したのは当のDさんなのだという。
Dさんの提案であれば行かないわけにはいかない。
半ば義務感に突き動かされて、Cさんは旧友との再会を決めた。

ところが、指定された待ち合わせ場所を確認してCさんは目を疑った。
伊勢の「おはらい町」の入り口で・・・。
鳥居の前でうずくまるEさん。
黒ずんだお守り。
頭の奥にしまい込んでいた記憶が蘇る。
よりにもよって伊勢神宮で再会を果たそうというのか。
みんなの考えがCさんにはわからなかった。

当日、Cさんは緊張した面持ちで待ち合わせ場所に向かった。
約束の10分前にすでに全員が集合していた。
久しぶりにあったEさんは髪こそ坊主頭だったけど、昔のままだった。
わだかまりなどなかったかのように仲良さそうに話すDさんとEさんを見て、
Cさんはホッと胸を撫で下ろした。
あの日と同じように「おはらい町」をみんなで歩いて、内宮を目指した。
ギスギスすることもなく、一瞬にして大学時代に戻ったかのように話が弾んだ。
けど、Cさんは内心モヤモヤとしていた。
説明はできないけど、みんなの態度に違和感を覚えていた。
みんながみんな無理に楽しくしようとしているからなのなのかとCさんは考えた。

やがて、鳥居と宇治橋が見えてきた。
「おはらい町」のお店を巡りながら、
Cさんは、せっかく来たのだから今度こそ伊勢神宮をちゃんと参拝して帰ろうと気持ちを切り替えた。
・・・ところがだ。
鳥居をくぐったCさんは、他の3人がついて来ていないことに気がついて、
振り向いた。
3人は鳥居の前に立っていた。
3人ともなぜか鳥居をくぐって入ってこようとはしなかった。
「ねえ、C。もっとお店見ていこうよ」
笑顔でDさんがCさんに呼びかけた。
EさんとFさんも笑顔でCさんに手招きした。
3人の笑顔はのっぺりとして不自然に見えた。

『鳥居は邪悪なものが入ってくるのを防ぐというから・・・』

数年前病室でFさんが言っていたセリフが頭にリフレインした。
「・・・みんなお参りいかないの?」
Cさんが3人に尋ねると、3人は変わらぬ笑顔で手招きを続けた。
頑なに鳥居をくぐろうとしない3人。
Cさんは怖くなって、その場から走って逃げ出した。

気がつくとCさんは自宅アパートまで帰ったきていた。
どうやって帰ってきたのか記憶が途切れていた。
まるで今日の出来事の全てが夢だったかのように・・・。
夢ならいいのにとCさんは思わずにいられなかった。

Cさんは3人と連絡は取らなかった。
3人からも特に連絡はなかった。
むしろ彼らは本当に本人達だったのだろうか、そんな気さえした。

それ以来、Cさんは、色々な神社仏閣を訪ねては、お守りを買ってくるのが癖になった。
そうすれば邪悪な存在が寄りつかないのではないか。
気休めかもしれないけど、そんな気がしたのだ。

そんなある日、Cさんが仕事を終えて深夜にアパートに帰ると、
恐ろしい光景が部屋に広がっていた。
コルク板のピンに吊るしておいたお守りが全て黒ずんで炭のようになっていた。
その時、部屋のインターフォンが鳴った。
「ねえぇ、Cぃ。伊勢神宮に行かなぁいぃぃ」
表から聞こえたのは間違いなくDさんの声だった・・・。

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