【怪談】【怖い話】通り雨

 

ここのところ、「通り雨」に見舞われることが極端に多い。

天気予報は晴れなのに、大学からの帰り際、自宅アパートの近くで突然、どしゃぶりの雨が降る。

今日でもう7日連続だ。
天気予報を信じて傘をもっていかないので、わずか数分雨に打たれただけで、アパートにつく頃には毎回びしょ濡れになる。

4日目の「通り雨」で、不思議なことに気がついた。
「通り雨」を通過中、毎回同じ女の子を見かけるのだ。
赤い傘をさして、ピンクの長靴を履いた小学生の女の子。背中にはランドセルを背負っていた。

その女の子とすれちがったあと、数秒で雨があがる。
まるで、女の子が雨を引き連れて歩いているようだった。
周りの人は誰も傘を持っていないのに、その女の子だけは毎回しっかりと赤い傘をさしている。
「通り雨」を予想していたかのように。

そんな話を、大学の食堂でサークルの友達たちに話していたら、僕のアパートの目と鼻の先に住んでいる友達から、最近、通り雨など一度も降ってないと言われた・・・。

なにかおかしい。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら帰った、その日の帰り道。
やはりアパート近くで「通り雨」に見舞われた。
天気予報を信じず、置き傘を用意していたので、僕はすぐに傘を開いた。
アパートまでは残り200mくらいだ。
その時、道の向こうから、赤い傘をさした例の女の子が歩いてくるのが見えた。
僕は立ち止まり女の子を目で追った。
女の子は水たまりをパシャパシャさせながらこちらに向かってくる。
「ねえ」
僕は無意識に女の子に声をかけていた。
女の子が立ち止まり持っていた傘を少し傾けて僕の方を見た。
女の子は糸のように細い目をして、顔は病的に青白かった。
「キミが雨降らせてるの?」
自分でも何を言っているんだと思いながら、口から言葉が自然に出ていた。
女の子は、口角を上げてニィと笑うと、黙ってそのまま歩き去って行った。
女の子の背中を見送りながら、僕は何かとんでもない間違いをしてしまったという気持ちがフツフツと湧いていた。

その日は、「通り雨」が止まなかった。
本降りの雨が夜まで続いた。
はじめてのことだった。
僕は明日提出しなければいけない大学のレポートをパソコンで仕上げていて、気づけば日付けが変わっていた。

コン・・・コン・・・

雨の音に混じって、玄関のドアをノックする音がした。
こんな真夜中に訪問者などありえるだろうか。
しばらく無視してみたがノックの音は続いた。
しかたなく玄関ドアのレンズを覗きにいった。
けど、表には誰も立っていない。
何かの音とノックの音を勘違いしたのかと思った。けど、胸騒ぎのような嫌な感覚があった。
気を鎮めようとキッチンにいって、コーヒーをいれることにした。
すると、今度は、ポツ・・・ポツ・・・ポツ・・・と水が滴るような音が聞こえてきた。
音の出所を探す。
作業机にさっきまでなかった小さな水たまりがあった。急いでパソコンを避難させる。
天井から水滴が落ちてきていた。
水漏れのようだ。
コップで水滴を受けられるようにした。
明日、管理会社に連絡しないとと思った。

コーヒーを飲みながら、作業に戻った。
けど、天井から水滴が落ちるポタポタという音に集中力がそがれて、すぐに手が止まった。
イライラしながら天井を仰いだ僕は言葉を失った。
さっきまで何もなかったのに、天井の水漏れが大きなシミになっていて、その模様のような形が「通り雨」の時に見かける女の子の顔そっくりだった。
目も鼻も口もある。
しかも、その口がニィと動いたように見えた。
「ヒッ」
僕は驚いて、取るものも取らずアパートを飛び出した。
不思議なことに表は雨が降っていなかった。
空気も乾いている。

「やっと開けてくれたね」

足元から声がした。
「通り雨」の女の子が僕を見上げて、ニィと笑った。
その瞬間、どしゃぶりの雨が降り出した・・・。

#453

-怖い話, 水に関する怖い話