【怖い話】窓にはりつく顔
これはYさん夫妻が体験した怖い話。
夫妻は高校の同級生で25歳の時に結婚した。
2人は、旦那さんの職場が近い街の賃貸マンションを借りて新婚生活を始めることにした。
まだまだ旦那さんの給料は安かったし、将来、子供が生まれることを考えると貯金もしたかった。
なので、築年数が古い物件で2人は我慢することにした。
古いだけあって、水まわりがすぐ調子悪くなったり、ドアというドアがきしんだり、エレベーターはガタガタとうるさかったり、文句をいえばきりがなかったけど、それでも2人はこれから始まる新婚生活に胸を躍らせた。
引っ越したその日の夜。
深夜に旦那さんは目を覚ました。
隣で眠る奥さんはスヤスヤと眠っている。
新しい環境にまだ慣れていないのかなと思い、もう一度寝ようとして、旦那さんはギョッと固まった。
まだカーテンもつけていない寝室の窓の外から覗いている人の顔があった。
50代くらいの中年男性で皺だらけの顔。
見開かれ点のようになった男の目からは何の感情も読み取れなかった。
咄嗟に旦那さんは手近に武器になるものがないか目で探した。
すると、そうこうしているうちにスッと窓の外の男は顔を引っ込めた。
旦那さんは、隣のリビングにたまたまおいてあった工具箱のトンカチを手に取り、男のあとを追ってベランダに出た。
しかし、男はいなかった。
部屋に侵入された形跡もない。
・・・しかも、ここは6階だ。
旦那さんは、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
翌日、赤い目をして眠そうな旦那さんの顔を見て奥さんは不思議に思った。
旦那さんは結局トンカチを握りしめたまま一睡もできなかった。
当然奥さんはわけをたずねたけど、旦那さんは心配をかけたくなかったので適当な理由をこじつけた。
この判断を旦那さんは後々後悔することになるのだが。
その日は、旦那さんは外せない仕事があったので職場に、奥さんは部屋に残って引っ越し作業の続きをした。
旦那さんは通勤の電車の中で何度も大欠伸をした。
けっきょく昨日見たアレはなんだったのだろう。
思考はどうしても昨日の窓の外の男に向かう。
疲労からくる幻覚か、それとも・・・。
会社で眠気と戦いながら仕事をしていると奥さんが片付けの様子を自撮りした写真を何枚か送ってくれた。
こんなささいなことが、眠気をふきとばしてくれ、奥さんのためにも仕事をがんばろうという気にさせてくれた。
しかし、何枚目かの写真で旦那さんは戦慄した。
奥さんが寝室の窓をバックに自撮りしている。
その窓に、昨夜の男の顔がはりついていた。
日中に見ると、男の表情はより空虚なものに見えた。
しかも首から下がない。
アレはやはりこの世のものじゃない・・・。
旦那さんは慌てて奥さんに電話をかけた。
しかし、何度掛け直しても繋がらない。
旦那さんは大切な会議をすっぽかして早退をし、自宅に走った。
旦那さんが慌ててマンションの部屋に戻る姿を何人かの住人が目撃している。
旦那さんがマンションで何を見たのか、何が起きたのかは誰にもわからない。
なぜなら、それきりYさん夫妻は忽然と消えてしまったからだ。
この話には今もって謎が多い。
部屋に「窓の外を見るな」という殴り書きのメモが残されていたという噂もあるが真偽のほどはわからない。
ただ、2人が住んでいた部屋はいわくつき物件としてその辺りの不動産屋の間で有名になったらしい。
その部屋に住むと、深夜に窓の外から部屋を覗き込む若い夫婦が現れるのだという・・・。
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