ゴールデンウィークの怖い話

 

今年のゴールデンウィークは5月1日が改元の祝日となり10連休となる。
周りの友達は旅行だなんだと浮き足立っているが、僕には、ゴールデンウィークになると思い出す嫌な記憶がある。

それは、僕が小学校3年生の時のこと。
僕の家は農家で、両親とも休みなく働いていたので、それまで夏休みなど長い休みの時でも、どこかに連れて行ってもらったりした記憶はなかった。
ところが、小学校3年生のゴールデンウィークは違った。

父が、母と僕と妹の3人での旅行を手配してくれたのだ。
父だけは畑の手入れが忙しいので家で留守番にはなったけど、はじめての家族旅行に僕も妹も心躍らせた。
出発当日、車に乗り込む僕らを父は笑顔で送り出してくれた。

父が手配してくれたのは遊園地だった。
しかも、遊園地内にあるホテルの宿泊つき。
一日遊園地で遊んで、しかも夜の園内で過ごせるという、子供なら喜ぶこと間違いなしのプランだった。
僕と妹は一日中母を連れ回し、あらゆるアトラクションに乗った。
夜は、ライトアップされたアトラクションを背景に食べたことないような美味しい料理を食べた。
フカフカのベッドで寝て、朝起きると朝もやに包まれた誰もいない遊園地を窓から眺めることができた。
夢のようなゴールデンウィークだった。

一泊二日の旅行はあっという間に終わり、
父にたくさんお土産を買って家に帰った。

ところが家に帰ると、様子がおかしかった。
父がどこにもいなかったのだ。
家にも畑にも。
夜になっても父は帰らなかった。

妹は旅行でクタクタに疲れていたので眠ってしまったが、僕は父の身を案じて眠れなかった。
母は近所の人達や父の知り合いに電話をかけ続けた。
けど、誰も父の行方に心当たりがなかった。
深夜になって、母は警察に相談をした。

翌朝、警察と近所の人達とで付近の山の捜索が行われた。
けど、手がかり1つ見つからなかった。
父は忽然と姿をくらませてしまった。
置き手紙も何もなく。

一ヶ月経っても父は帰ってこなかった。
父がゴールデンウィークにわざわざ旅行の手配をしていたことから、警察は計画的に行方をくらませたものと考えているようだった。

それからの苦労はあまり語りたくない。
僕は友達と遊ぶ時間もなく母の仕事を手伝った。
とにかく毎日クタクタに疲れていた。

一年も経つと、父がいない暮らしに慣れてきた。
母も泣く回数が減った。
父に何があったのかは計り知れないが、家族を捨てたのだと諦め、納得しようとしていた気がする。
けど、ゴールデンウィークが近づくにつれ、父のことを思い出し、胸が苦しくなった。

翌年のゴールデンウィーク初日。
夕飯を食べると、なぜか畑に足が向かった。
もしかしたら父が帰ってくるかもしれないと心のどこかで思ったのかもしれない。
真っ暗な畑に一人でたたずむ。
土と野菜の香りが鼻をつく。
何十分もそうしていると、ふと畑の向こうの方に人影が見えた気がした。
目をこらす。
見間違えじゃない。
だれかいる。
「お父さん!?」
僕は叫んで走り出した。
人影は何も答えず立ち尽くしている。
足がもつれ前のめりに転んだ。
立ち上がると人影は消えていた。
涙が出てきた。
なぜ急に僕らを置いていなくなったの?
尋ねたいことはいっぱいあった。

家に戻ると妹が声をあげて泣いていて、母が抱いて慰めていた。
ワケをたずねると、妹の部屋に父らしき黒い影が立っていたというのだ。
母が妹の叫び声を聞いて駆けつけた時には、人影は消えていた。
妹は、怖くて泣いていたようだ。
翌日には、母が、畑から父が呼ぶ声を聞いた。
父が何か僕たちに伝えようとしているのだろうか。
そんな気がした。

その年から僕の家では、毎年、ゴールデンウィークになると、怪奇現象が起きるようになった。
ラップ音、深夜の足音、畑に現れる人影。
はじめの数年こそ父が帰ってきたのかもしれないと思っていたけど、怖がらせるようなタイミングで起きる怪奇現象に、僕たち3人は神経をすり減らしていった。
本当に父が関わっているのかも怪しみだした。

僕が中学2年の時、ついに母が度重なる苦労と終わらぬ怪奇現象に病んでしまった。
母は家と畑を売り、僕たち家族は手狭なアパートに引っ越した。
母は親戚の紹介で職場を見つけ、住み慣れた家を離れ、父のいない人生を再出発する決心をした。
くしくも引っ越したのは4月だった。
引っ越しをすればもう怪奇現象に悩まされることもなくなると思ったけど、その年のゴールデンウィークは、みんな家にいるのが嫌で、母の実家に遊びに行くことになった。

その年の7月。
思いもよらぬニュースが舞い込んできた。
連日の大雨で土砂崩れが起きて、実家があった場所が土砂で埋まったのだ。
買い手は家屋を潰して倉庫にしていたので、人的な被害はなかった。
もしあのまま僕たちが実家に住み続けていたら、僕たちは今頃全員この世にいなかったかもしれない。

口には出さなかったけど、僕も母も同じことを考えていた。
毎年ゴールデンウィークに起きていた怪奇現象は、早く家を出てけという父の警告だったのではないか。
父は僕たちを守ってくれたのだ。
心の中のモヤモヤがスッと消えた気がした。

ようやく父がいない再スタートを切れるような気がしていた。
その時は、、、。
ところが、翌年のゴールデンウィーク。
一人、アパートで留守番をして中間テストの勉強をしていたら、そのまま机で眠ってしまった。

ガン!

突然の衝撃に目が覚めた。
首に激痛が走った。
誰かの手が僕の首を爪を食い込ませて掴み、頭を机に叩きつけた。
何度も何度も。
痛い、やめてくれ!
僕はなりふり構わず手を振り回した。
バッと振り返ると、そこには誰もいなかった。

父が土砂崩れから救ってくれたというのはとんだ勘違いだった。
母が実家を買い取った業者から不穏な噂を聞いていた。
土砂で埋まった場所を掘り起こしていたら、お社のようなものが出てきたというのだ。
その話が本当なら僕たちの実家は埋められたお社の上に建っていたというわけだ。

去年は家を空けていたからたまたま何も起きなかったたけだと僕は悟った。
大昔から僕たちの実家には何者かが初めから住みついていたのだ。
ソイツは、毎年ゴールデンウィークになると家に現れる。
そして、父はソイツに殺されたのだ。

毎年ゴールデンウィークになると、今でも"ソイツ"の気配がする。
もうすぐ今年もゴールデンウィークがやってくる。もちろん家にいるつもりはない。
家の暗闇の中、ときおり正体がわからない"ソイツ"の笑い声が聞こえるような気がする。

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