令和元年の怖い話

 

5月1日に平成から令和に元号が変わる。
予想の上をいく新元号だったので、当たった人はほとんどいないのではないか。
けど、俺の周りに新元号を当てた男が一人いる。
これは、その男にまつわる、奇妙な怖い話だ。

その男の名前は仮にRとしておく。
Rは俺の会社の後輩だ。
Rは可もなく不可もない、いってしまえば取り立てて目立たない普通の男だ。
出世コースから外れ役職をもたずに30代に突入していた。
浮いた話を聞いたこともなく、毎日を淡々と生きている、そんな男だった。

今年の2月頃、そんなRと飲み会で席が近くになり、話をしているとRが奇妙なことを言い出した。
「新元号、もしかしたら令和かもしれないです」
「レイワ?なんかちょっと語呂が悪くないか?だいたい昭和で和は使ったばかりだぞ」
その時は、突然何を言い出すんだと思った。今思えばRの予想は的中していたことになる。
Rは話を続けた。
「変な夢を見たんです。いつものように電車に乗ってるんですけど、中吊りの広告に令和元年という文字が見えて、なんで平成じゃないんだろうと思って、ああ、新元号なのかなって。で、普通に電車を降りて出社するという夢なんですけど」
「なんだそりゃ」
「僕、思うんですよ、もしかしたら・・・」
俺は真面目にRの話を聞いてなかったので、その後、Rが何を言ったかしばらく忘れていた。

4月1日、新元号が発表された時、俺はすぐにRを思い浮かべた。まさか、Rの予想が的中するなんて。俺は興奮してオフィスでRの姿を探した。
しかし、Rの席は空だった。
直属の上司にワケをたずねると、Rは昨日づけで退職していたことがわかった。
「理由も言わず突然やめるって言い出してな。同期の噂だと、宝くじか競馬ででかい金額当てたんじゃないかって。いきなり高い腕時計とか買い始めたんだとさ。何考えてんだかね」
その時、俺は雷に打たれたように飲み会の席でRが言っていた言葉を思い出した。
「僕、思うんですよ、もしかしたら、タイムスリップしてたのかもしれないって」
もし、本当にそうだとしたら、競馬の万馬券を当てるくらいわけがないはずだ。
新元号を当てたことと言い、なにかがあるには違いない。

俺は話が聞きたくて、Rのマンションに行ってみた。
けど、Rはすでにマンションを引き払っていた。
真相はわからずじまいかとあきらめかけマンションから出ようとした時、スーツを着たRがマンションに入ってきた。
呼び止めると、Rはキョトンとした様子だった。
「先輩なんでここにいるんですか」
「お前こそ。引っ越したんじゃなかったのか。お前の部屋空き部屋になってたぞ」
「空き部屋に?あぁ、そうか。僕はもう住んでないのか」
「そんなことより、教えてくれ。なんでお前会社をやめたんだ。飲み会の席で言ってたこと本当か?タイムスリップしたのかもしれないって」
「それなんですけど、困ったことになっていて。制御ができないんです・・・」
そう言った瞬間、Rの姿が煙のようにかき消えた。
さっきまで会話をしていたのが嘘のようにRがいた場所は何もない空間に変わっていた。

それ以来、Rの姿を見かけていない。
もしかしたら元号が令和に変わった街のどこかでRはさまよい歩いているのかもしれない。

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