【怖い話】人形ホテル

 

怖い話好きの仲間の間で、「人形ホテル」と呼ばれる心霊スポットが話題になった。

日本のどこかにあるという廃ホテルなのだが、数え切れないほどの人形が建物の中に放置されているらしい。
しかもただ放置されているだけではない。
フロントにはフロント係の人形、客室には宿泊客の人形といった風に、まるで人形によってホテルが操業されているかのようなのだという。
誰が人形を置いているのかは不明で、
噂によれば日に日に人形の数は増えているらしい。

怖い話好きとしては、ぜひともお目にかかりたいスポットだけれど、誰もその詳しい場所は知らなかった。
ネットに出回る創作系の怪談の一つがそれとなく実話っぽく広まったのでは、というのが仲間内での結論だった。

ところがある日。
怪談仲間のRさんから深夜LINEが届いた。
「人形ホテルを見つけた」
朝、メッセージに気づいた私は興奮して、「どこにありました?」と返信した。
ところが何日経っても一向に既読がつかない。
それどころか仲間の誰もRさんと連絡がつかなくなった。
Rさんは意味深なLINEを最後に忽然と行方をくらませてしまったのだ。

Rさんの家族は失踪人届けを警察に出した。
私はご家族の許可を得て、引き払う前にRさんの部屋を調べさせてもらうことにした。
心霊やオカルト関係の資料が雑然と山のように積まれている中、私は一枚のメモを見つけた。
メモには「人形ホテル」という言葉と、その下に電話番号が殴り書きされていた。
ネットでその電話番号を調べてみたけどヒットはしなかった。
廃業になる前の番号だとして繋がるはずがないと思いながらも、私は試しにその番号に電話してみた。
呼び出し音は鳴った。
そして、驚いたことに電話が繋がった。
「はい、×××ホテルでございます」
男性の低い声。
機械の自動音声のように無機質な声音だった。
なぜか×××の部分は何度思い出そうとしても思い出せない。
まさか電話が繋がると思わなかったので私はとっさに言葉が出てこずしばらく黙っていた。
すると、男性が続けた。
「ご宿泊でしょうか?」
ふつうに営業しているホテルの対応だった。
「あの・・・えっと・・・」
私が言いよどんでいると男性は言った。
「かしこまりました。では、◯◯様で一部屋お取りさせていただきます」
そしてガチャリと電話は切られた。
あまりの展開にスマホを手に呆気に取られていたが、よく考えると、電話口の男性がこちらが名乗りもしないのに本名を知っているのはおかしい。
ゾワッと寒気がした。

その夜のことだ。
ベッドで眠っていると微かな物音に目が覚めた。
寝ぼけ眼で見たデジタル時計は深夜3時を過ぎていた。
何の音だろうと寝返りを打って、私は目を見張った。
常夜灯だけの薄暗がりの中に、そこにあるはずがない異質なモノがあった。
大きなドールハウス・・・
まるで中世の貴族のお屋敷のような精巧なミニチュアだった。
雷に打たれたように私は理解した。
「人形ホテル」の正体は、どこかにある廃業したホテルではなく、このドールハウスなのだと。
その時、ホテルの入口と思われる観音開きのドアがギギギギと重たい音を立てて開き始めた。
心臓が口から出そうだった。
ドアの奥の暗闇から、何かが出てくる気配があった。
嫌だ、怖い・・・。
本能が警告を発していた。
何か恐ろしいことが起きると。
私は咄嗟に、「しゅ・・宿泊はキャンセルします!」と頭に思い浮かんだフレーズを叫んだ。

・・・気がつくと翌朝だった。
ドールハウスは跡形もなく消えていた。
アレは夢だったのだろうか。
今でもはっきりしない。
夢だろうと現実だろうと、ただ、これだけはわかる。
咄嗟に宿泊をキャンセルしてよかったと。
もしキャンセルすることが思い浮かばなかったら、どんな恐ろしい目に遭っていたのか、想像するだけで恐ろしい。

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