日比谷公園の怖い話

 

日比谷公園は東京都千代田区にある都立公園で、霞ヶ関、内幸町、有楽町と隣接する都心部のオアシスとなっている。
園内には日比谷公会堂や野外音楽堂がありイベントが数多く行われ、
平日はサラリーマンの憩いの場となり、休日は家族連れや観光客で賑わっている。

数年前、有楽町で遅くまで飲み会があり終電を逃したことがあった。
酔いを覚ましてから始発で帰ろうと思って、僕は日比谷公園に向かった。
秋口だったので、ギリギリ外で夜を明かすのも耐えられそうだった。
深夜の日比谷公園は昼の雰囲気と一変していた。
ひとけがなく寒々しい感じがした。
ベンチにはぽつりぽつりと人がいたが、街灯がほとんどないので顔の判別はできない。
それが一層、気味が悪く、
周りのオフィスビルが深夜でも煌々と明るいので対照的に日比谷公園の暗闇はまるで異世界のようだった。

僕は噴水の近くのベンチに腰掛けた。
しばらく携帯電話をいじっていると酔いのせいでウトウトしてきた。
噴水のザーッという規則的な水音が眠気を余計に誘った。

その時、「ザバァ」という奇妙な音が聞こえた。
噴水の方からだ。
目を開けて確かめた。
噴水の際に人影があった。
距離があるので男なのか女なのかわからないが、
その姿勢が妙だった。
噴水を囲むコンクリートに上半身を預け下半身は見えない。
・・・まるで噴水の水の中から今しがた這い上がったかのようだった。
そんなわけがないと思いつつ、もしかしたら噴水で泳ぐ変な人かもしれないとも思った。
東京には変な人が多い。

人影は這いずるように噴水の外に出てきた。

ビチャビチャビチャ

やはり噴水に入っていたのか。
身体から滴る水音が聞こえてきた。

背中を寒気が走った。
人影は這いずったまま、こちらにゆっくり向かってきていた。
場所を移動しようと思い立ち上がろうとしたけど、身体が金縛りにあったように動かなかった。

ビチャ・・ズル・・ビチャ・・ズル・・

噴水から現れた影は細長いフォルムをナメクジのように這わせながら僕が座るベンチにどんどん近づいてきた。
叫び声を上げているつもりなのに喉から声が出ない。

もう2メートル近くまできている。
・・・女だった。
水に濡れた長い髪が顔を覆っている。

身体をよじってみても一向に金縛りは解けない。

濡れた女は、ナメクジのように這ったまま僕の足を掴み、僕の身体をのぼってきた。
懸命に身体を反らして逃れようとしても無理だった。
女の手が僕の顔に触れた。
氷のように冷たい。

オァァァァァァ

獣の唸り声のような鳴き声を上げ、女が顔を近づけてくる。

・・・ハッとすると、夜が明けていた。
朝日が目に眩しかった。
夢だったのか。
時間を確認すると6時を過ぎていた。
思いのほか眠りすぎた。

帰ろうと思って、違和感に気づいた。
・・・服がグチョグチョに濡れていた。

やはり昨日の女は実在したのか。
僕は日比谷公園を逃げるように後にした。

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