【怖い話】黒いサンタクロース

 

黒いサンタクロースという都市伝説をご存知だろうか?

クリスマスイブの夜に、欲しいプレゼントと黒い服を着たサンタクロースを描いた紙を靴下の中に入れておく。
すると、夜中に、本当に黒いサンタクロースが家に現れて、プレゼントをくれる。
ただし、プレゼントと引き換えに自分はさらわれてしまうという怖い都市伝説だ。
もし、知っていたとしても、決して興味本位で黒いサンタクロースを呼び出したりしない方がいい。
私は、それを身をもって体験したのだ。
一昨年の12月。大学3年生の時のことだ。

クリスマスイブ。
彼氏のいない友達3人で集まって、クリスマスパーティーをしていた。
すると、ミカが黒いサンタクロースを呼び出して彼氏をプレゼントしてもらおうと言い始めた。
お酒の勢いでアユミと私も同意して、黒いサンタクロースを呼び出してみることになった。
ミカがメモ用紙に少女漫画に出てきそうなイケメンと黒いサンタクロースを描いて靴下に入れた。

3人で尽きない話をしているうちに、あっという間に夜は深まっていった。
気がつくと深夜3時。みんなウトウトし始めていた。
すると、突然、ガタンと大きな音がしてハッと目がさえた。音は上の方から聞こえてきた気がした。
ミカもアユミも上を見上げていた。
音はそれだけで終わらず、ガタン、ガタンと続いた。
ミカのアパートは2階建ての2階に位置している。
まるで誰かが屋根の上を歩いているかのように思えた・・・。
黒いサンタクロース・・・。
その時まで、黒いサンタクロースを呼び出そうとしていたことなどすっかり忘れていたのだが、ふいに頭をよぎったのだ。
ミカとアユミも同じことを考えていたらしく「まさかね・・・」と苦笑いしている。
音は続いた。
「猫かな?」とアユミが言った。
その時だった。
ドン!と音がして、屋根の上を闊歩していたものがベランダに降りてきた。
カーテンを隔てた向こうに、何かがいる・・・。
恐怖でゾクゾクと総毛立つのがわかった。
「猫だよ、絶対!」アユミは恐怖を振り払うように言った。
「・・・見てみる?」とミカ。
「ダメ、絶対、ダメ!」アユミはすっかり怖気づいている。
賛成できなかったが、変に想像力を働かせてしまうより、正体を見てしまった方がいい気もした。
私がうなずくとミカがカーテンに手をかけ、一気に開いた。

そこには・・・何もいなかった。
3人とも安堵の息をついた。
「やっぱり何か動物だよ」とアユミ。
「マジ勘弁なんだけど」ミカは怒っている。
その時だった。
玄関のドアノブがガチャガチャと勢いよく回り始めたのだ。
3人とも悲鳴を上げていた。
表で誰かがドアを無理やり開けようとしている。
「やだ!なんなの、本当!」アユミは完全にパニックに陥っている。
ミカは、立ち上がって、玄関のレンズを覗きに行った。
「・・・誰?」
私は聞いた。
「・・・黒いサンタクロース」
「嘘でしょ・・・」
その時、何を思ったのか、ミカはサンダルを履き始めた。
「ちょっと!何、やってるの?」
「・・・確かめてみる」
私が止める間もなく、ミカは鍵を開けて表へ出て行ってしまった。
そして、数秒後、ミカの悲鳴が聞こえた。
「ミカ!」
私は、ミカを追って表へ飛び出した。

「なーんちゃって!」
目に飛び込んで来たのは、ミカと知らない男の人だった。
二人ともしてやったりといった満面の笑みを浮かべている。
二人のイタズラだったのだ。男の人はミカのサークル友達でダイキくんと言うらしい。
「・・・もー、やりすぎだし!」
「あれ、泣いてる?」
身体から緊張が抜けて涙が目からポロポロ流れてきた。
怒ってもいたが、それ以上に安心していた。
何もなくてよかった・・・。

私とミカとダイキくんは部屋に戻った。
部屋では、事情を知らないアユミが震えていた。
「アユミ、全部ミカのイタズラだったんだよ、安心して」
しかし、アユミは、恐怖が抜けきらないようで、震えが止まらない。
・・・これは、ちゃんと二人に謝らせないと。
その時、アユミが私の背後をゆっくりと指さした。
振り返ると、玄関でミカとダイキくんが二人で話をしていた。
「屋根に登るとかやりすぎじゃない?」
「・・・は?オレ、そんなことしてないよ」
「・・・え?」
その瞬間、ドアが開いた。
ミカの背後に立つ真っ黒な服を着たサンタクロースが立っていた。
私は目を疑った。
ミカとダイキくんも固まっている。
黒いサンタクロースはミカの身体を腕一本で抱きかかえると、あっという間に連れ去っていった。
アユミの絶叫が部屋に響き渡った。

すぐにダイキくんと私で表に出たけれど、もうどこにも黒いサンタクロースもミカもいなかった。
二人は忽然と消えてしまった。
ミカのイタズラが、本当に呼び出してしまったのだ。
黒いサンタクロースを・・・。

あれから2年。再びクリスマスの季節がやってきた。
ミカは、まだ、見つかっていないが、私の身辺は劇的に変化しようとしていた。
年明けに私は結婚する。相手はダイキくんだ。
ミカのイタズラに乗ってしまったことにダイキくんは責任を感じていた。
そんな彼の相談相手になっているうちに、お互い大切な存在になっていった。
アユミは、あの日のことが原因で心を病んでしまい、心療内科に通うようになった。
実家に引きこもるような生活を送っているらしく連絡も取れなくなってしまった。
自分だけが幸せになろうとしていることに罪悪感はある。
結果的に、私にとってダイキくんとの出会いは、かけがえのないプレゼントとなった。
ミカが呼び出した黒いサンタクロースは確かにプレゼントを運んでくれたのだ。
だけど、そう思うと、なんともいえない嫌な気分になるのだった・・・。

クリスマスイブになった。私にとっては忌まわしい日でしかない。
お祝いをするつもりはない。
プレゼントもなしにしようとダイキくんと二人で話していた。
だけど、なぜかクリスマスプレゼントが届いた。
アユミからだった。
嬉しさもあったが、どういうつもりでクリスマスプレゼントなんて送ってくれたのだろうという思いの方が強かった。
リボンで飾りつけられた包みを解いて中から出てきたのは、靴下だった。
靴下の中には、カードが入っていた。
「メリークリスマス」とメッセージがついたカードには、ミカの写真が貼ってあり、その横に殴り書きのような黒いサンタクロースが描かれていた・・・。

#92(再掲載)

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