六義園の怖い話

2018/12/06

 

東京都文京区にある六義園は、徳川五代将軍・徳川綱吉の側用人・柳沢吉保が、自らの下屋敷として造営した大名庭園である。
三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎が六義園を購入後、1938年(昭和13年)には東京市に寄贈され、都市公園として整備されている。

六義園では毎年、紅葉の見ごろに合わせて日没後にライトアップが行われ、
紅葉のスポットとして毎年、大勢の観光客が訪れている。

これは昨年、六義園で僕が体験した怖い話だ。

11月下旬、会社の同僚数人と仕事帰りに六義園の紅葉のライトアップを見に行くことになった。

駒込駅から歩いて数分。
閉園間近でも、六義園は大勢の人で賑わっていた。
ライトに照らし出された紅葉の赤と黄と緑のグラデーションの世界は絵画の世界に入り込んだようだった。
中でも、庭園の池に映り込む紅葉した木々は息を飲む美しさで、しばし、ここが東京だと忘れさせてくれた。
おびただしい量の光で明るいだけのイルミネーションにはない荘厳さがあった。

ところが、この景色を写真に残そうと思って、スマホのカメラを向けたのだけど、なぜかシャッターが切れない。
寒いからスマホが正しく動作をしないのかと思って手で温めてトライしたけどダメだった。
そんな僕を横目に同僚達は、何枚も写真を撮っている。

池の周囲をグルッと回るように散策の順路は続いているのだけど、結局、スマホの調子は戻らず、同僚達が撮影した中の何枚かに映り込んだくらいで、自分では一枚も写真を撮影できなかった。

六義園を後にしたあと、
少し飲もうと同僚達と居酒屋に入った。
同僚達は、さきほど撮影した写真をお互いに見せ合いながら、誰が一番よく撮れているか競い始めた。
僕は一枚も撮っていないのでただ横で見てるしかなかった。
ところが、同僚達が撮影した写真を見せてもらううちおかしなことに気がついた。

・・・僕が一枚も写っていない。
確実に映り込んでいるはずの集合写真にすら写っていない。
「あれ、◯◯さん、写ってなくない?」
同僚の一人が気がついた。
僕もワケがわからなかったので、苦笑いするしかできなかった。
僕が写真に写っていないことで、場がにわかに盛り上がり始め、心霊写真ではないか、という空気が流れた。
そういえば、と僕は自分のスマホの調子が悪くて写真が撮れなかったことを告げた。
前に座っていた同僚が、僕のスマホをヒョイと取り上げて、カメラを確認した。
カシャカシャ
写真は普通に撮影できた。
やっぱり心霊現象だと、みんなが肝を冷やしかけた時、僕のスマホを持つ同僚が神妙な顔で言った。
「おい、よく見たら、六義園の写真も撮れてるよ」
そう言ってスマホを返してくれた同僚はなんだか
浮かない顔に見えた。
受け取ってカメラロールを確認した僕は声を上げそうになった。

画面いっぱいの黒と不思議な模様。
誤動作でシャッターが切れたのかと思いきや、よく見ると、不思議な模様は人の目だった。
女性の顔がどアップで写っていたのだ。
もちろん知りもしない女性だ。
写真を見せるとみんな押し黙ってしまった。

「お冷になります」
場の空気もおかまいなしに店員さんがテーブルにやってきて、頼んでいた人数分のお冷を置いていった。
ところが、僕たちは8人なのに、お冷は9つあった。
はじめから誰も座っていない席に置かれたお冷。
僕たちはすぐにお勘定をしてお店を逃げるように後にした。
帰り道、清めの塩を買って、みんな身体に振りかけてから帰った。

僕が六義園から"何か"を連れてきたに違いないと責められたのは言うまでもない。

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