北枕の怖い話

 

北枕は縁起の悪い寝方とされている。
もともとは仏教の開祖、釈迦が亡くなった時、
北の方角に頭を向けていたことに由来するらしい。
以来、北枕は死者を極楽浄土に送る寝かせ方となり、
生者が死者と同じ寝方をするのは縁起が悪いとされるようになった。

私は、小さい頃、田舎の祖父母から、北枕は縁起が悪いのでよくないと教えられて育ったので、
社会人になって一人暮らしを始めた時も、ベッドの向きが北にならないよう気をつけた。

ところが最近になって、北枕は風水的には身体にいい向きという情報をききかじった。
地球の磁力が北に向かって流れているので、血行などがよくなるという。
現金なもので、身体にいいと聞くと、
祖父母の教えは脇に置いやり、試してみようかという気になった。
もともとベッドは南向きなので、足元に枕を置いて寝てみた。

悪夢や金縛りに遭うようなことはなかった。
どちらかというとグッスリ眠れた。
ただ、起きた時、私は南向きに頭を向けていた。
寝た時は北に頭を向けていたので、180℃回転したことになる。
寝相の悪さに驚くしかなかった。
こんなことは初めてだった。

翌日も北枕を試してみた。
やはり朝までよく眠れた。
ただ、起きると頭は南を向いていた。
眠っている間にクルクル身体が回転している様子を想像すると、奇妙な感覚だった。

ある時、友人が私の部屋に遊びに来た。
深夜までとりとめのない話をして、その日も北枕で眠りについた。
深夜、私はベッド脇に布団を敷いて寝ていた友人に揺り起こされた。
「どうしたの?」
私は南に頭を向けていた。
「どうしたのって。こっちが驚いたよ。突然ムクッて起き上がったかと思ったら、
ブツブツつぶやきながら部屋をグルグル歩きだして。
それが20分くらい続いて、その後、急に電池が切れたみたいにベッドに倒れこんだんだよ。
何も覚えてないの?」
・・・何も覚えてなかった。
話を聞く限り、まるで夢遊病者のようだった。
「信じてくれないかもしれないから後で見せようと思って、起きたところ録画してたんだけど、見る?」
友人がスマホで撮影した動画を再生した。
友人の言葉通り私は部屋の中をグルグルと歩き回っていた。
友人の呼びかけに何も反応していない。
映像の私は小声で何がブツブツつぶやいている。
友人が音量を上げた。
寝ぼけた私が何をつぶやいているか聞き、私達は2人とも身震いをした。

死にたくない・・・死にたくない・・・死にたくない・・・

やはり祖父母の言う通り北枕は縁起が悪いというのが正しいのでないかと思う。
北枕をやめてからは、夢遊病みたいに歩き回ることは一度もなくなった。

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