【怖い話】電化製品を壊す男

 

これは僕の友達のBにまつわる話。

Bは、配送業者で働く26歳。
駅から徒歩15分のアパートに一人で暮らしている。
Bと僕は学生時代の居酒屋アルバイト仲間で、アルバイトをやめてからも、互いの家を行き来する仲が続いていた。

ある時、Bから相談を持ちかけられた。
「この頃、電化製品がやたらと壊れるんだよな」
はじめは照明の電球が交換してもすぐ切れてしまう現象から始まったらしい。
その後、ドライヤーが壊れ、iPad、電子レンジ、テレビと次々と家電製品が故障して使えなくなっていったという。
「この地域、なんかおかしな電磁波でも出てるんじゃないか」
そう思いつきで答えたもののBは首を傾げるだけで、僕も的を射てるとは思えなかった。

2人してネットで色々調べていると、
ある検索結果がヒットした。

『電化製品が壊れやすい部屋には幽霊がいる』

ちょうど調べていたのが夜だったのもあり、僕は背筋が寒くなるのを感じた。
Bは黙って、ネットの記事を齧りつくように読んでいる。

Bの部屋を見回してみる。
この1DKのどこかに、この世のモノではない存在が潜んでいて、こちらをうかがっている、そんな想像が膨らんで恐ろしくなった。
「金縛りとか何か見たとかあるのか?」
僕はBにたずねた。
Bはためらうことなく首を横に振った。

僕は、試しにBの部屋をスマホのカメラで撮影してみた。
オーブとか、特におかしなものは何も映らなかった。

朝まであーでもないこーでもないと議論したが、何も問題の解決に結びつくようなことにはならなかった。

数週間後、Bはアパートの引っ越しを決めた。

ところが、Bが新居に引っ越してから1ヶ月くらい経って、電話がかかってきた。
「まただ」
説明はなくとも何が起こったのかわかった。
Bの部屋を訪ねると、買い換えた電化製品がほとんど壊れていた。

どうもこの現象は部屋ではなくBについてきているらしい。
もしかしたら、アメコミのヒーローみたいにBに特殊な能力があるのだろうか、そんな考えが思い浮かび慰めてみたけれど、Bは半ばノイローゼみたいになっていて、神経質そうに「だったらいいけどな」と吐き捨てただけだった。
目の下のクマは濃くなる一方。
体調も心配だった。

それもそうだろう。
得体の知れない何かが自分の周りにいると思ったら、半端ないストレスがかかるに違いない。
Bはなんとか状況を打開しようと色々と対策を講じていた。
部屋の四隅に塩を置いてみたり、小さな神棚を買ってお供えをしたりしていた。
けど、現象は一向に収まる気配を見せないという。
「この頃は新しい電化製品を買うのは諦めてるよ」
Bは自嘲気味にそう言った。

一方の僕も最近、Bについてある悩みを抱えるようになった。
Bの部屋に行くたび、Bが憎くて憎くて仕方なくて殺してしまいたくなるのだ。
人間の脳は電気信号で動いている。
そんな話をどこかで聞いたような気がする。
僕もBの近くにいたから、影響を受けて、脳が壊れてしまったのだろうか。

今、僕はBの背後に包丁を持って立ち、Bを刺したいという抗いがたい葛藤と闘っている。

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