袋田の滝の怖い話
袋田の滝(ふくろだのたき)は、茨城県久慈郡大子町袋田にある滝で、長さ120m、幅73m。
冬は「氷瀑」と呼ばれる、滝が凍結する現象が発生することがあり、
華厳滝、那智滝とともに日本三大名瀑のひとつに挙げられることもある。
正面から滝の全景を観賞するためには、
「袋田の滝 観瀑トンネル」(長さ276m、高さ3m、幅員4m)を通って第1・第2観瀑台へ行く必要がある。
これは、そんな袋田の滝で僕が体験した怖い話。
ある時、大学のサークル仲間数人でドライブにでかけ、袋田の滝に立ち寄った。
季節は秋から冬に変わろうという頃だった。
到着した時間が早かったのもあって、人影はまばらだった。
入場料を払って、観瀑台に続くトンネルを進んだ。
トンネル内は奥から冷たい風が吹きつけて寒かった。
向こうから、滝を見終わって帰ってきている人が歩いてきてすれ違った。
僕たちと同じ年頃の女性。
女性の一人旅だろうかとちょっと気になった。
すれ違いざまチラッと横目で確認すると、女性は頭から水でもかぶったみたいにずぶ濡れだった。
足元にはポタポタと水滴が落ちて跡ができていた。
あんなに濡れるなら傘を持ってくればよかったと軽く後悔しているうちに観瀑台にたどりついた。
柵のすぐ向こう側を巨大な滝が流れている様は圧巻だった。
写真をとって、じっくり眺めているうちに、ふと不思議になった。
あれ?いくら近づいても、ほとんど濡れない。
多少、飛沫が飛んできているのは肌で感じるけれど、さきほどすれ違った女性みたいに、
ずぶ濡れになるようなことはなかった。
一体、どうしたらあんなに濡れたのだろう。
そんなことを考えながら、一通り順路を巡って、駐車場に停めてある車にもどった。
後部座席に乗り込んだ瞬間、違和感を覚えた。
シートがぐっしょりと濡れていたのだ。
ズボンを通り越して下着まで水が染みたのがわかった。
一体なぜ?
頭にいくつもクエスチョンマークが浮かんだ。
思い浮かんだのはさきほどすれ違ったずぶ濡れの女性だった。
シートを確認している僕を不思議に思った友達が声をかけてきた。
僕は、シートが濡れていたことを話した。
「もしかしたら、さっきトンネルですれ違った女の人、幽霊だったのかもしれないな」
僕がそう言うとみんなキョトンとした顔になった。
「すれ違った女の人って?」
驚いたことに僕以外の3人とも、トンネル内でずぶ濡れの女性を見かけていなかった。
僕だけに見えた女性・・・。
やはりこの世のモノではなかったのだろうか。
思わぬところで体験した怪異現象に僕たちは肝を冷やしながら、
車は出発した。
なんとなく車内の会話は少なくなった。
僕はスマホで撮影した袋田の滝の写真を確認した。
「あっ」と思わず声が出てスマホを落としそうになった。
どの写真にも、ずぶ濡れの女性が写り込んでいた。
女性が写り込んでいる部分だけ、暗く陰鬱な影ができていた。
みんなに見せようと思って、身体の向きを変えて、
ハッとした。
自分の横の座席シートがジワジワと濡れていっているように色が変わっていっていた。
まさか・・・。
僕はスマホのカメラを起動して、自分の横の座席に向けた。
ずぶ濡れの女がカメラ越しにこちらを見つめて笑っていた・・・。
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