【怖い話】渋谷のハロウィン

 

ハロウィンの渋谷で、
仮装した人達の素行の悪さがしきりにニュースに取り上げられているけど、
去年、僕も怖い目にあった。

2017年10月31日。
大学の友達数人で仮装して夜の渋谷に向かった。
スクランブル交差点の前は仮装姿の人達で溢れていて、異様な熱気だった。
押されたり足を踏まれたり、
酒と汗とゴミが混ざったような臭いもひどいし、
着いて数分で来たことを後悔していた。

人混みを掻き分けて歩くうち友達の姿を見失ってしまった。
しばらく友達を探したけど、全然見つからず、
僕はだんだんと人混みに酔ってきたので、
人がいない方いない方へ歩いていった。

すると、いつの間にか、人通りがない通りに入り込んでいた。
雑居ビルに囲まれた細い裏路地のようなところで、
一本道が違うだけでまったく人がいなかった。

息を大きく吸い込んで落ち着いていると、突然声が聞こえた。
すぐ近くにいつの間にかホームレスの男性が座り込んでいた。
こんな人さっきまでいたか?そう思ってビクッとなった。

仙人みたいに伸びた髪は脂ぎっていて、
顔は骸骨みたいに痩せこけていた。
ハロウィンの仮装の落し物を拾ったか盗んだかしたのだろうか、
髪にリボンをつけ、魔女みたいなパーカーを着ていた。
下は、黄色い水玉模様のタイツのようなモノを履いている。
まるで、チグハグなピエロみたいだった。

「お菓子くれよ〜」
ホームレスの男性が僕の方にグルッと顔を向け声をかけてきた。
僕は無視して通り過ぎようとした。
けど、ホームレスの男性は、思いの外に機敏で、
サッと立ち上がって僕の行く手を塞いだ。

「お菓子くれよ〜」
僕は踵を返したけど、サッと前に回り込まれた。
腰も曲がっているのに、なんでこんなに速く動けるのか疑問だった。
「お菓子くれよ〜」
呂律の回っていない、間延びした口調が余計に怖かった。
確かカバンにもらったチョコか飴が入っていたはずと思い、
カバンを漁った。
「お菓子くれよ〜。くれないとイタズラしちゃうぞ〜」
次の瞬間、僕は目を疑った。
ホームレスの男性の手に果物ナイフが握られていたのだ。
玩具かと思ったけど、本当にそうだろうか。
嫌な汗が流れた。
「お菓子くれないと、イタズラしちゃうぞ〜」
ニヤニヤと笑って男は繰り返した。
僕は再度、カバンを手で漁った。
お菓子が、なかなか見つからない。

その時、向こうの通りに制服を着た警察官の姿が見えた。
僕は咄嗟に「助けてください!」と叫んだ。
警察官が声に気づいて路地に入ってきた。
ホームレスの男性は、少し頭が鈍いのか、
警察官が歩いてくるのをボーッと眺めている。
助かった、そう思った。
警察官の男性は僕達のところまで来ると、
状況を見定めるようにしている。
「どうしましたか?」
「こいつがお菓子くれないんだよ〜」
ホームレスの男は、果物ナイフを握ったまま、
自分は間違ったことをしていないかのように発言した。
「それは、いけないな。お菓子をあげないと」
警察官の発言に僕は耳を疑った。
何を言っているのだ、この人は。
警察官はいきなり腰のホルスターに収められていた拳銃を抜くと、
僕に銃口を向けた。
「お菓子くれないと、イタズラしちゃうよ」
わけがわからなかった。
ホームレスと警察官は、まるで初めからグルだったかのように、
僕の両腕を掴んで、近くの雑居ビルに連れ込もうとした。
嫌だ嫌だ!
振り払おうとしても、2人はものすごい力で僕の腕をがっちり押さえていた。
お菓子、お菓子だ!
手でカバンをもう一度、探った。
チョコの包装紙に手が触れた。
慌てて引き抜いたチョコは僕の手をすり抜け、地面に転がった。
「お菓子、お菓子だぁ」
ホームレスと警察官は目の色を変えて、
僕を解放し、地面に落ちたチョコを拾おうとした。
その隙に、僕は走って裏路地から逃げた。
振り返ることはできなかった。
人混みを走って抜け駅に向かった。
どうやって帰ったのかは、あまりよく覚えていない。

あれは一体何だったのか。
仮装した人達のイタズラだったのか、それとも、、、。
もしかしたら、僕は一人で渋谷の異界に迷い込んでしまい、
人ではないモノたちに遭遇してしまったのかもしれない。

今年もハロウィンに誘われたけど、断った。
ハロウィンで渋谷を訪れる人は、くれぐれも気をつけて欲しい。
人が多いからと言って、決して安全とは限らないのだ。

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