これは、先日、
地元の友達4人と遊びに出かけた時に体験した怖い話。
ある時、
隣県に新しくできたアウトレットモールに行こうという話になって、
車でショッピングに行くことにした。
メンバーは全員中学からの付き合いで、
男が僕とムードメーカーのAの2人、
女の子がB、Cの2人。
昔から4人でよく遊んでいた。
僕らは高校を卒業したばかりで免許を持っているのは僕だけ。
必然的に僕がドライバーになった。
と言っても、自家用車はないので、
安いレンタカーを借りることにした。
数万キロ運転済の古い国産車だったけど、
お金のない身としては新車のレンタルなどできないので仕方ない。
手続きを済ませ、さっそく車に乗り込むと、ちょっと妙だった。
車がすごく冷えていたのだ。
さっきまでガンガンにクーラーをつけてたみたいだった。
あらかじめスタッフさんが、
冷やしておいてくれたのだろうか。
そんなに気の利く人には見えなかったけど。
夏場ということもあり、他の3人は、
車が冷えていることなど気にした様子はなかった。
変だなと思ったけど考えても仕方ないことなので、
まあ、そんなこともあるかと納得して、さっそく車を発進させた。
目的地まで、高速を使って2時間弱かかる。
途中のサービスエリアで休憩することにした。
いつものメンバーで他愛ない話をするだけで、
とても楽しかったけど、
休憩を済ませて車に戻った時、
奇妙なことが起きた。
僕以外の3人が全員、後部座席に乗り込んだのだ。
はじめは何かの冗談かと思ったけどそうじゃないみたいだった。
さっきまで助手席に座っていたAが真っ先に後部座席に乗り込んだ。
「オレ、後ろがいいな。だれか前行っていいよ」
Aは苦笑してそう言った。
Aらしくない歯切れの悪い感じだった。
女子2人も顔を見合わせて困った様子だった。
どうやら、みんな、なんとなく助手席に座るのが嫌ということらしい。
ドライバーからしたら腹立たしい話だ。
すれちがいでの喧嘩は前からあったけど、
こんな奇妙な空気になったことはなかった。
けど、せっかく遊びにきたのに雰囲気を悪くしたくなくて、
僕は明るい調子で車を再び走らせることにした。
アウトレットモールについた後は、
ショッピングや食べ歩きで忙しく、
さきほどの出来事など忘れてしまった。
ランチを食べて、
色々な店舗を回っていたら、
あっという間に夕方になってしまった。
そろそろ帰ろうと車に乗り込むと、
窮屈なのにも関わらず3人はやはり後部座席に乗った。
もう気にするまいと決め、僕は車を走らせた。
疲れたのか帰りはみんな口数が少なかった。
高速の入口までは山道が続く。
周りを走る車がだんだんと少なくなっていく。
やがて、妙だな、と思い始めた。
けっこう車を走らせているのに、
いっこうに高速のインターにたどりつかない。
ナビの言う通りに走っているはずなので、
間違いはないはずなのに、
どんどん山深く入っていっている気がした。
一度、車を止めナビの設定を確認した。
ちゃんと、地元のレンタカーの店舗に目的地は設定されている。
なのに、最寄りの高速のインターからは、かなり離れた場所にきてしまっていた。
「どうしたの?」
後部座席からBが声をかけてきた。
「ナビが変なんだ」
僕は再度ナビを設定し直して、車を発進させた。
そこから、10分ほど走ると、
ナビが左に曲がるよう指示を出してきた。
車一台が通れるかどうかの細い山道だった。
街灯がまったくなく、車のライトがなければ、
先が一切見えないような暗い道だった。
本当にこんな道を通るのか、
半信半疑だったけど、
不慣れな土地で頼れるのはナビだけだ。
僕はナビを信じて、その細い道に入っていった。
後部座席の3人も息を呑んだように静かだった。
しばらく坂を上っていくと、
ついには舗装された道が途切れ、
ちょっとした広場のような草地に出た。
ナビの間違いを確信した。
「悪い、道を間違えたみたいだ」
僕は車をUターンさせようと思ったけど、
なぜかその草地に車を止めてしまった。
自分でもよくわからないけど、そうしないといけないような気がしたのだ。
後部座席の3人は何も言ってこない。
むしろ、車が止まった瞬間、3人は一斉に車を降りた。
僕も慌てて続いた。
「なにここ」Cが言った。
何でもない草地だ。
周りを囲む雑木林が風に揺れて、
ザワザワと音を立てている。
何もない場所なのに、
胸を締め付けられるような圧迫感があった。
3人は雑木林の方に進んでいった。
「おい、どこいくんだよ」
3人は返事もせず足を止めずに、
ずんずん進んでいった。
まるで何かに引っ張られているみたいだった。
このままだと雑木林の中に入っていきそうだ。
・・・様子がおかしい。
僕は急いで車に戻って、
クラクションを鳴らした。
すると、ハッとしたように、
3人が足を止めた。
我に返ったのか、3人は慌てて、車に戻ってきた。
3人が後部座席に乗ったのを確認して、
僕は車をすぐにUターンさせた。
ここにいたらいけない。そう思った。
引き返す時に、
一度だけバックミラーで後ろを確認したのだけど、
雑木林の暗闇の中に誰かが立っていたように見えた・・・。
その後、ようやく高速のインターを見つけ、
なんとか無事、レンタカーの店舗まで戻ることができた。
僕はドッと疲れが出てクタクタだった。
返却前に忘れ物がないか確認していると、
助手席の下から、
誰のものかわからない女性用の指輪が出てきた。
以前この車に乗った指輪の持ち主に、
あの草地で何かがあったのではないか、そんな気がしてならなかった。
僕たちは、指輪の持ち主に招かれてしまったのかもしれない・・・。
レンタカーを借りる時は、
以前に誰が使ったのかわからないので、くれぐれも注意して欲しい。
#372