【怖い話】家に憑くもの

 

これは小学校の教員をしている友人のTさんから聞いた話です。

Tさんは、女子大を卒業後、念願だった学校の先生となりました。

ある年、Tさんは4年生のクラスを担任することになりました。
クラスには問題児もおらず、落ち着いた雰囲気で、担任をしやすかったそうです。

ただ、一つだけTさんには懸念がありました。

一度も登校してこないYちゃんのことです。
Yちゃんは、いわゆる不登校児で、3年生の時からほとんど学校にきていませんでした。
当時の担任の先生に事情を聞いてみても、
ムードメーカー的な明るい子で、イジメられていたわけでもなく、理由もわからず、ある日から急に不登校になってしまったといいます。

責任感が強い Tさんは、自分が担任をしているうちにYちゃんを何とか学校に登校させたいと考えました。
何度かYちゃんの自宅に電話を入れましたが、お母さんから、Yちゃんはまだ体調が戻らないと告げられるだけで、本人と話すこともできませんでした。

そこで、Tさんは、アポなしで家庭訪問をすることにしました。

Yちゃんの家は、住宅街にある一軒家でした。
インターフォンを押すと、お母さんがソッと顔を出しました。
Tさんが名乗ると、お母さんは一瞬表情を歪めましたが、次の瞬間にはニコニコとして、 Tさんを自宅に上げてくれました。

「Yちゃんと、会わせていただけませんか」
挨拶もそこそこに Tさんは本題を切り出しました。
「それが・・・無理なんですよ。Yは部屋のドアをノックしても反応してくれません」
「試しに私にやらせていただけませんか」
「親の私に反応しないのに、先生なら反応すると言いたいんですか」
口調は柔らかでしたが、お母さんの言葉には棘がありました。

Tさんは、お手洗いを借りたいと申し出ました。
廊下に出ると、 Tさんは、お母さんに気づかれないようYちゃんの部屋がある2階に上がっていきました。

階段を上りきると、 Tさんは目の前の光景に息をのみました。
廊下に、椅子やテーブルやキャビネットが山と積み上げられていたのです。
それらは、ある部屋のドアの前に積まれていました。
これでは部屋の中から出ようと思っても出られません。
Yちゃんは、家族に監禁されているのかもしれない。
ゾッと背筋に寒気が走りました。

その時、微かに声がしました。
「あ・・け・・て」
力のない、か細い声でした。
「Yちゃん?Yちゃんなの?」
Tさんは、声を聞くと、とにかく部屋から助け出さなければと思って、夢中でドアの前に積まれた家具類をどかしました。

「なにやってるんですか!?」
異変に気がついたお母さんが2階に上がってきました。
「やめてください!」
けど、 Tさんは手を止めませんでした。
「これは明らかな虐待です。児童相談所と警察に報告させていただきます」
「やめて!あなたは何もわかってない。その部屋にいるのが何なのか」
ドアが開くくらいの隙間ができ、
Tさんは、ドアノブに手をかけました。

その時でした。
「・・・ママ、何の音?」
奥の別の部屋から、Yちゃんが目をこすりながら出てきました。
Yちゃんがあそこにいるなら、この部屋の中にいるのは・・・?
Tさんが開ける前に、ドアが中から開けられました。
ドアの隙間から、骨と皮だけの真っ白な手がゆっくり出てきました。
驚いたYさんは、尻餅をつきました。

「なんてことを!ようやく閉じ込めたのに」
Yちゃんのお母さんが叫びました。

尻餅をついた Tさんは、信じられない光景を見ました。
ドアの隙間から、青白い顔をした大勢の人達がこちらを覗いていたのです。

その後のことを Tさんはよく覚えていないといいます。
ハッと気がついたら、自宅に帰ってきていたそうです。

そして、Yちゃん一家は、誰にも何も告げず姿をくらませてしまいました。
多くの借金があったことがわかり、夜逃げではないかと噂が立ちましたが、
Tさんだけは、あの部屋を開けてしまったからではないかと思いました。
Yちゃん一家の消息は今もわかっていないそうです。

この話を教えたくれた後、 Tさんはボソッと私にいいました。
「最近、家に何かがいる気がする」と。

#362

-家の怖い話, 怖い話