【怖い話】開かずのエレベーター

 

こんな経験ないだろうか?
エレベーターに乗ると、ある階のボタンだけ固定されていて、押せなくなっている。
他の階には止まるのになぜかエレベーターで降りられない開かずのフロアがビルにある。

学生時代に僕がアルバイトしていた居酒屋が入っていた雑居ビルにも、エレベーターが止まらない開かずのフロアがあった。
エレベーターの6階の押し込みボタンだけ、四角いプラスチックが上から被せられていて押せないようになっていたのだ。
2フロア借りているテナントが入っているわけでもなく、誰も開かずのフロアに何が入っているか知らなかった。
例え、そのビルで、空きテナントが出たとしてもエレベーターまで封鎖したりはしていない。
ビルの警備員さんに、それとなく聞いてみたけど、濁されて教えてもらえなかった。
なぜか6階が完全に封鎖されていた。

封鎖されたフロアには一体何があるのか。
アルバイト仲間みんなが興味津々だった。

ある時、
アルバイト仲間の一人が、
悪ふざけでボタンに被さったプラスチックを剥がそうとした。
いきなりパキッと音がして、覆いが剥がれ、剥がそうとしていた当の本人が一番驚いていた。
覆いの下から6階のボタンがあらわれた。
別の仲間が指でボタンを押すと、6の数字が光った。
ボタンは機能していて6階にちゃんと停止するらしい。
エレベーターはすでに6階を過ぎていたので、
そのまま下っていき、1階にたどりついた。

「おい、6階に何があるか今から見にいこうぜ」
ボタンを押したDがエレベーターに残ったまま言った。
けど、僕を含めた残りの3人は、
みんなエレベーターを降りてしまい、誰もDに続こうとしなかった。
いざ行けるとなると、みんな及び腰になった。
「なんだよ、じゃあ、俺ひとりで見てくるよ」
Dはひとりで6階に向かった。
エレベーターの階数パネルは6階で止まった。
Dを置いて帰るのも忍びなくて、みんなその場に残った。

けど、10分が過ぎ、20分が過ぎ、30分経ってもDは戻ってこなかった。
さすがにおかしいとみんなそわそわし始めた。
「探しに行った方がいいんじゃないか」
「誰が?」
僕たちは顔を見合わせ、みんなでDを探しに行くことにした。

エレベーターに乗り込み、6階に上がった。
チン!という軽快な音がして扉が開いた。

照明がないので、真っ暗だったけど、
微かにバーカウンターのようなモノが見えた。
もともとはバーだったのかもしれない。
スマホのライトを懐中電灯がわりにした。
妙に寒かった。
バーカウンターの奥にライトを向けると、カウンターの一席に誰かが座っていた。
Dだった。
まるでお酒を待つバーの客のように座っている。
「おい、D」
僕が肩に手を置くと、Dの身体がガタンとカウンターに倒れた。
顔にライトを向けると、白目を剥いて口から泡を吹いていた。
慌てて揺り動かしたけど、一向に起きなかった。

その時、
奥の暗闇の中から、フー、フー、という人の息遣いのような音が微かに聞こえた。
奥には、バーとして営業していた頃のテーブル席の名残があった。
僕たちは音に反応して一斉に奥にライトを向けた。
・・・誰もいない。
けど、フー、フーという音だけが聞こえる。
暗闇の中に”何か”が潜んでいる。
そんな感覚があった。
本能的な恐怖を感じて全身を悪寒が走った。
「早く降りよう」
みんなでDの身体を支えて、エレベーターに向かった。
下りボタンを押す。
1階に戻ってしまっていたエレベーターがゆっくりと上昇を始めた。
早く来てくれ、早く来てくれ。
焦って何度もエレベーターのボタンを叩いた。

フロアの奥に潜む”何か”の気配が濃くなった。
フー、フーという音が大きくなっている気がした。
何かがこっちに迫って来る・・・!
そう思った瞬間、エレベーターが6階に到着した。
僕達は急いでエレベーターの箱に乗り込み、1階と「閉」のボタンを連打した。
ゆっくりとエレベーターのドアが閉まっていく。
ドアが閉まり切る瞬間、隙間から"何か"が手をさし込もうとしてきた。
一瞬見えたその腕は異様なほど細くて白かった。

エレベーターが下り始めた。
みんな無言だった。
心臓が口から出そうだった。

一階に着いてエレベーターのドアが開いた。
僕は目を疑った。
Dが自動販売機でジュースを買って飲んでいたのだ。
Dは、エレベーターに乗っている僕たちに気づいてキョトンとした。
「あれ?お前らまだいたの?聞いてくれよ、6階から降りようとしたら、エレベーターが全然止まってくれなくてさ。超焦ったわー。で封鎖されてた非常階段のドアこじ開けてさっき下りてきたところ」
・・・目の前にDがいる。
僕たちが6階から助け出したDは・・・。
僕は恐る恐る振り返った。

・・・”それ”は、そこにいた。
骨に薄皮を一枚だけつけたような細い人間。
頭蓋骨の形がはっきりわかるごつごつした顔。
数本だけ生えた髪。
肌が異様に青白く、性別も年齢もわからない。
Dのフリをしていた”それ”はゆっくり立ち上がった。

僕たちは叫び声を上げて一斉に逃げ出した。
後ろを振り返ることなくがむしゃらに走った。
家にたどり着くと、全身の震えが止まらなかった。

無事だったのはよかったけど、その日以来、
僕たちが働いている居酒屋で怪奇現象が起こるようになった。
真夜中、誰もいないはずの厨房から声がしたり、
朝出勤すると棚の中の皿が落ちていたりした。
どうも僕たちが働いていた居酒屋だけじゃなく、
その雑居ビル内のテナント全てで怪奇現象が起き始めたらしい。
どうも僕たちは、6階に閉じ込められていた"何か"を外に出してしまったようだ。

僕はそれからすぐにアルバイトを辞めたのだけど、
僕が辞めてから1年もしないうちに、そのビルは無人の廃ビルとなってしまった・・・。

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