【怖い話】持ち物検査

 

オレの高校2年の時の担任・Nは、クラス中から嫌われていた。
生徒の生活指導担当教員だったといえば、わかりやすいかと思う。
規律にうるさく、廊下ですれ違いざま服装や髪型を注意される。
校則違反を見つけたら、何時間も説教。
最悪だったのは、不意打ちの持ち物検査だった。

けど、そのきまぐれな持ち物検査のおかげで惨事が防がれたのは認めないといけない。

同じクラスにGという男子生徒がいた。
Gは学校生活になじめず、いつも1人だった。
ぶつぶつと独りごとを言うので、みんなに気味悪がられていた。
露骨なイジメはなかったけど、存在しない透明人間のように扱われ、陰でさんざん言われていた。
Gは休んだり登校したり半分不登校のような状態だった。

ある日のホームルーム、Nが持ち物検査を行うと宣言した。
教室中から溜息と不満のささやきが漏れた。
出席番号順に教卓まで鞄を持っていって、中を見せるのがいつもの流れだった。
その日は、たまたまGが登校していた日だった。
Gは出席番号がオレの一つ前だったので、オレはGの後ろで自分の順番を待っていた。
「次」
Gが教卓の上に鞄を置く。
Nは乱暴な手つきで鞄を開けた。
そんなつもりはなかったけど、すぐ後ろに立っていたオレには鞄の中身が目に入ってしまった。
声を上げそうになった。
Gの鞄の中に、サバイバルナイフやナタみたいな刃物、ハンマーが入っているのが見えたのだ。
Nは一瞬ひるんだ様子だったけど、すぐにみんなから見えないよう教卓の陰にGの鞄を持っていき、ゴソゴソと中をあらためる仕草をした。
みんなはわからなかったろうが、Nはさりげなく凶器を回収したのだろう。
鞄をGに戻すと、「次」とオレが呼ばれた。
オレは動揺が収まらず、席に戻るGの背中を目で追った。
Gは、あんな凶器を学校に持ち込んで何をするつもりだったのか。
想像すると、恐ろしくなった。
その時、Nが乱暴にオレの鞄をもぎ取った。
「さっさとしろ」
Nは、ぞんざいにオレの鞄の中をあらためると、小声で言った。
「余計な真似をして、オレをわずらわせるな」
他のクラスメイトが聞いていたとしても、
オレがすぐに鞄を渡さなかったことに対して言っていると思ったろうけど、オレはすぐにピンときた。
Gの持ち込んだ凶器について誰にも言うなという忠告だと。
いや、Nの忠告は脅迫だ。
オレが軽々しく誰かにもらせば、進路評価などで徹底的にオレの足を引っ張るつもりだろう。
腹の中はムカムカしたけど、
オレはNに逆らうような真似をするつもりはなかった。
さわらぬ神に祟りなしだ・・・。

Gは、翌日から学校に来なくなった。
表沙汰にせず、退学になったのだとオレは思った。
ところが、どうもそうじゃないと知ったのは、
持ち物検査から3日後のことだった。
持ち物検査があった日、Gは家に帰らず、
両親が警察に捜索願いを出したというのだ。
警察もクラスメイトも、大方の人はGは家出したものだと思っていた。
オレは、
学校を襲撃しようと計画していたことをNが家族や警察に報告すると思って、逃亡しているのだろうと思った。

けど、なんか変だった。
いつもなら家出や夜間徘徊に特に厳しいNが、
Gの家出に対してだけは淡白な反応だったのだ。

なにかNだけが知っている事情があるのだろうか。

オレは廊下ですれ違った時に思い切ってNに聞いてみることにした。
「G、どこにいったんでしょうね」
すると、見間違えだろうか。
Nは、口元に笑みを浮かべた。
「お前も思うだろ。あんなヤツ、この社会にいらないって」
そう言ったNの顔は今まで見たことがないほど、
嘲笑的だった。
「余計なことして、オレを煩わせないでくれよ」
・・・もしかして、Nは、Gを殺害したのではないか。
そんな気がして背筋に寒気が走った。

何年も経った今でもGは行方知れずのまま。
真相はわからずじまいだ・・・。

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