渋谷のダンススタジオの怖い話

 

私はヒップホップダンスのインストラクターをしております。
以前はスポーツジムでレッスンをさせていただくことがほとんどでしたが、最近、個人でダンススクールを主宰するようになりました。

生徒は10代、20代の子がほとんどです。
エクササイズ目的の子から、本格的にダンサーを目指す子まで、様々でした。

利便性がいいので、渋谷駅から少し歩いた場所にあるダンススタジオをレンタルしてレッスンに使っていたのですが、そのスタジオがちょっとワケありでした。

スタジオに一歩足を踏み入れると、独特の臭いが鼻につきます。
硫黄臭というのか、卵が腐ったみたいな独特な臭いです。
窓を開けて換気すると、いったんおさまるのですが、レッスンを始めてしばらくすると再び臭いだします。
生徒からのクレームもあったので、運営会社に改善を求めて問い合わせたのですが、一向によくはなりませんでした。

それから、こんなこともありました。
レッスンを始めると、すぐに、ある生徒が寒気がするといいました。うずくまってしまったので、暖かい服をはおらせて背中をさすっていたら、今度は別の子が体調不良を訴え始めました。
「私も」「私も」
連鎖するように、次々と体調を崩していく生徒たちをみて、何か恐ろしい伝染病でも流行りだしたのかと真剣に恐ろしくなりました。
けど、翌週にはケロッとした様子で、みんなレッスンに復帰しました。

「先生、このスタジオなんかヤバイよ」
そういう声がちらほら聞こえるようになりました。
実際、幽霊を目撃した子もいました。

しかし、こんな手頃で利便性がいいスタジオの代わりは簡単に見つかるものではありません。
赤字覚悟でスタジオ代を上げて探すか迷っていましたが、そんな矢先、ついに私自身も恐ろしい体験をしてしまいました。

その日レッスンはお昼からで午前中はスタジオで自主練をしていました。
鏡張りの壁に向かい、入念にポーズの確認をしていたのですが、ふと鏡の中の自分に違和感を覚えました。
なんだろう・・・。
注意して鏡をみるうち、
はじめはわからなかった違和感の正体に気がつき、寒気がしました。
・・・鏡の中の私は、ワンテンポ遅れてうごいていたのです。
注意を払ってなければわからないくらいの差でしたが、現実の私の動きを鏡の中の別の私が忠実に真似しているかのようでした。
その時です。
鏡の中の私だけが微笑んだのです。
私は荷物も置いたまま、走って逃げました。

結局、少し都心から離れた場所に新しいスタジオを見つけ、教室を移すことにしました。
幸い、ほとんどの生徒さんがついてきてくれました。

そして、レンタルスタジオで起きた怪奇現象の原因は意外な形で判明しました。

あるレッスン前、生徒の女の子が私にスマホに保存された写真を見せてきました。
「友達の友達が怪しい宗教にはまっちゃったらしくて、こんな画像が送られてきたんだって」
薄暗い部屋の中、ろうそくの光だけつけて、車座になった集団。
集団の真ん中には、魔法陣のような図形が描かれ、その上に藁人形が置かれていました。
カルト系のホラー映画から切り抜いた一場面のようでした。
「先生、ここよく見て」
女の子は、画面の上端の暗い部分を指差しました。
目を凝らすと、見慣れた入り口のドアがありました。
私達が使っていたダンススタジオでした。
「この人達が、いつも私達の前に、あのスタジオを使ってたんだよ」
「・・・」
今のスタジオの他のグループの使用状況を、その日のうちに確認したのは言うまでありません。

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