【怖い話】浅草の人力車

 

これは以前、私が東京の浅草で体験した怖い話です。

浅草の雷門前から始まる仲見世通りと、その先にある浅草寺は連日大勢の観光客で賑わっています。
雷門前には多くの人力車が止まっていて、人力車に乗って周辺を観光する方も多く見かけます。
以前浅草で一人暮らししていたので、よくそのあたりの通りを利用していました。

ある時のことです。

裏通りを歩いていたら、人力車と遭遇しました。
それ自体は珍しいことでもなんでもありません。
けど、様子が少し変でした。
普通、人力車は、乗客を運ぶ俥夫の人が観光案内をしながらゆっくり進むものですが、その人力車はスピードが速く、俥夫も乗客も黙ったままでした。
すれ違いざまチラと見ると、人力車には着物姿の女性が一人だけ乗っていました。
じっと下を俯いています。
純粋に移動手段として人力車を使っているのかな、とぼんやり考えました。
けど、やっぱり変だな、と思い振り返ると、人力車は忽然と消えていました。
すれ違ってから振り向くまでに曲がれる角などありませんでした。
昼間でしたが、私は怖くなって、急いで裏通りから抜けました。

後から聞いた話ですが、浅草には、見てしまうと不幸になる人力車というのがあるらしいです。
私が目撃したのは、ひょっとしたらこの世のものではなかったのかもしれません。

今のところ、大きな不幸はありませんが、
人力車でどこかに連れられていく悪夢に悩まされています。

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